フロイオンを支持する貴族が増えることにより、会議を開くことも頻繁になった。
ゴック・シャルクはフロイオンを支持する勢力が大きくなることに満足したが、
フロイオンは不安を取り払うことができなかった。
フロイオンがイグニスに戻ってきたことを知らない者は国王カノス・リオナンだけだといわれるほど、
フロイオンの帰還が多くの人々に広まっていた。
ずる賢いジャドル・ラフドモンなら自分について情報を入手しているはずなのに、
何の動きも見えないのが逆に心配になってきた。
「さあ、私はジャドル・ラフドモンについてはよく知りませんが、
フロイオンさんが戻ったことを恐れているのはないでしょうか?暗殺が失敗し、無事生還しましたことを」
朝から始まった会議の休憩時間にジュリエットとフロイオンはバルコニーで話をしていた。
「本当にそういうことなら幸いですが、彼女は良心とは遠く離れている人です。
私が彼女に習いたいと思っている点は細かいことに気を使わないことです」
「彼女を憎まないでください。
誰かを憎むことは自分の心を汚す毒になってしまいます」
何も言わずにジュリエットを見つめていたフロイオンはささやくように話した。
「ジュリエットは他のダークエルフとは違いますね」
「え?何が…ですか?」
「何て言えばいいだろう…純粋という言葉が一番ふさわしいようですね。
あなたを見ているとまるで天使を見ているような気がします」
ジュリエットは微笑みながら答えた。
「もし本当でしたら、それは多分ラウケ神団の教えに従っているからだと思います」
「ラウケ神団?ラウケ神団について知っていますか?」
「はい。フロイオンさんもご存知のようですね」
「旅行中にラウケ神団の人々に命を救われました」
「そうですか。私もラウケ神団の人々から助けをもらったことがあります。
その時、彼らからラウケ神団の教えについて聞きました。
神がロハン大陸を破壊しようとしている考えは信じられませんが、
他の様々な価値観については習えるところが多いと思いました。
この世の中で一番美しいことは真実だと信じているそうで、
ラウケ神殿修道院はまるで図書館のように本が壁を詰めつくしているそうです。
後で機会があれば、ぜひ行ってみたいと思っています」
ジュリエットは自分を見つめているフロイオンの眼差しに少し恥ずかしさを感じたようで、
少し顔を赤くし、下を向きながら小さい声で話した。
「何か…一人でしゃべっているようですね」
「大丈夫です。あなたの話を聞いていると、気が楽になります」
「でも…おしゃべりはお嬢さんらしくないですね」
フロイオンはうつむいているジュリエットの顔を優しく上げて、軽くキスした。
ジュリエットの目が驚きで大きくなった。
「大丈夫です。私の目にはあなたが一番美しい女性に見えます」
「フロイオンさん…」
「私達が出会った時間はまだ短いですが、多分私は初めてあなたに出会った瞬間から恋に落ちたようです。
あなたがいないと心が雨の空のように重くるしいですが、あなたに出会った瞬間、晴れてしまいます。
この気持ちが恋でなければ何でしょうか」
両手をジュリエットの顔に添え、もう一度優しくキスした。
目を見つめながら、もう1回ささやいた。
「ジュリエット、愛しています…」