第一章 救援の重さ
第10話 1/2/3 ヒューマンの国デル・ラゴスに建てられたグラット要塞はヒューマンの誇る自慢の建築物だと聞いていた。 数が急増したモンスターが人間を襲い始め、その防御の要として建てられた要塞だ。短時間で建てられたにしては堅牢に仕上がったこの要塞を、ヒューマンは「無敵の要塞」だと誇りに思っていた。 トリアンは自分の目の前でがっくりと肩を落としている若い騎士の気持ちが分かるような気がした。 ヒューマンの象徴の1つがその内側から一気に崩れてしまったのだ。 エルフの誇り高き首都レゲンをモンスターに奪われたように。 グラット要塞に入る前までトリアンはこうなるとは予想さえもしていなかった。要塞内の状況を見ていたキッシュが口を開き低い声で呟くように言った。 「あの坊やを助けに行くぞ」 「ま、待って。私も行くわ」 キッシュは答えもせずに体を伏せて要塞の方に向かった。キッシュの後を追って入ったトリアンが見た要塞の状況は悲惨だった。 大勢の兵士の遺体が要塞内に散らばっていた。狂気にとらわれお互いを憎み、戦いあう兵士達。 トリアンはその暗い気運に体が震えてくるのを感じた。 彼らはお互いへの憎悪感で、まるで周りにあるものが何も見えなくなったようだった。 キッシュは兵士たちが襲ってこないことに気付き、しばらくその大きな耳を傾け様子を伺った。 そして急いで要塞内のある建物の方に向かった。 トリアンは足元で行く手を遮る死体や、死体から流れてできた血溜まりを避けつつキッシュの後を追った。 半分開かれていた建物のドアをキッシュは押し開けた。 キッシュの後を追って建物に入ったトリアンは眉をひそめた。 キッシュの背中に隠されて前の状況がよく見えなかったトリアンには、キッシュが誰かの肩を抱いているように見えた。 それが誰なのか気付く間も与えなく、キッシュが特有の甲高い声で叫んだ。 「何ぼーっとしてるんだ!何とかしな!お前は魔法師じゃないか!」 ・次の節に進む ・次の話に進む ・次の章に進む ・前の話に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |