第一章 救援の重さ
第11話 1/2/3 母は何も言わずにナトゥーから渡されたラークの遺品の腕輪をいじるだけだった。 彼女の目からは涙一滴も流れていないが、眉間に寄せたシワが悲しみや苦しさを物語っていた。 父親は15年前にこの世を去った。 ジャイアントの大地を守るために勇敢に戦って命を落とした誇り高き戦士だった。 母親は4人の子供を持ち、その中の娘1人を病気で失った。 そしてまた1人の息子を、自分の夫と同じく名誉ある戦死という形で失ってしまったのだ。 首が斬られて倒れていた弟の遺体を思い出し、ナトゥーは唇を噛み締めた。 冷たい腕にはめられていた腕輪。弟の遺体を抱き上げた時、腕輪の金属がぶつかり合って出した冷たい音は今も生々しく覚えている。 ナトゥーはこれまで部下の遺品を遺族に渡した経験が何回もある。 それは何度経験しても決して慣れる事がない。 そして今、自分の弟の遺品を家族に渡し、弟の戦死を自分の母親や妹に伝えるということは想像もできないほどの苦しみを伴っていた。 息もできないほどの重い空気。妹は腕輪を握っている母親の手に自らの手を重ね、泣き出した。 娘の手を撫でながら慰めていた母親の目にも涙が溢れてきた。母親の顎から床に涙が落ちる前に、ナトゥーは家を出た。 弟の死を伝えるために実家に帰ったことを思い出すと、息が詰まり胸が苦しくなる。 ナトゥーは喉の奥からこみ上げてくるような重い苦しさを吐き出すように、深いため息を付いた。 自分の家庭だけに起きた特別な悲劇ではない。 戦闘が開かれる度に、自分の妹や母親同様、数多くの家族は涙を流しただろう。 大地の神ゲイルが見下ろしていたこの大地はいつから汚されていたのか。 ジャイアントの神ゲイルはいつから消えてしまい、醜いモンスターが現れだしたのか。ゲイルはいつからジャイアントに背を向けることになったのか。 ・次の節に進む ・次の話に進む ・次の章に進む ・前の話に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |