第一章 救援の重さ
第12話 1/2/3 トリアンは自分がエルフの国ヴィア・マレアを離れて、ヒューマンのデル・ラゴスまで秘密裏に来た事情について話した。 大神官リマ・ドルシルが全ての父なる主神オンの消滅を目撃したこと。 各種族を司っていた神々が何故その種族に向けて敵意を出し始めたのか。 大陸各地から現れ始めたモンスターは神の手によって作られたという話し。 神がこの大陸を創造し、各種族を誕生させ、これからまた消そうとしてる…… 全てを目撃したとはいえ、エルフの神マレアを祀る神官としてリマ・ドルシルには、信じられない苦しい現実だった。 彼女には現状について自分を納得させる証拠が必要だった。 大神官という職のため、ヴェーナから離れることのできないリマは魔法アカデミーの 生徒何人かを選び、大事な任務を任せた。 トリアンに任せられた任務は最近、混沌の気運が強く漂っているヒューマンの国、デル・ラゴスにあるグラット要塞に行って状況を見極めることだった。 そしてトリアンはリマ・ドルシルから紹介されたキッシュというデカン族と共にグラット要塞を訪問、危機に直面していたヒューマンの若い騎士、エドウィンを助けたのだ。 エドウィンはまだ状況が分かっていない表情だったが、トリアンの長い話を黙って聞いてくれた。 トリアンの知ってる限り、デル・ラゴスの全騎士はロハを祀る大神殿所属の聖騎士だった。 エドウィンの鎧からもロハの聖騎士団のマークが目立っていた。 そんな彼に神がこの大陸の種族に敵意を抱いて、種族の抹殺のためにモンスターをこの大陸に送っているというのは衝撃的な話しになるだろう。 トリアン自身もこれまで目撃したこと、聞いた話の中の美しくて高潔で、優しい女神マレアがエルフを抹殺しようとしているとの話しは到底信じがたい話だったから。 トリアンの話しが終わると、キッシュがその喉を奥から鳴らしながら、荒い息を出した。 「キッシュは偉大なるドラゴンの末裔。君が知ってるとおり、デカンだ。 リマ・ドルシルとは悪縁でからまって、今度はこのエルフをエスコートして グラット要塞まで来たわけだ。」 キッシュは簡単な自己紹介をしただけですぐ黙った。 彼の肌はたき火からの明かりで、鱗のついた生き物の皮膚のように、つらつらと光っている。 エドウィンとしては確か初めてみる姿の異種族だった。 しかし信頼してもいい存在なのか、キッシュももしかしたら、モンスターの変種ではないか、といった小さな疑いは頭の中から消えなかった。 ・次の節に進む ・次の章に進む ・前の話に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |