第一章 救援の重さ
第9話 1/2/3 騎士団の詰め所のホール前で肩を握ってきた冷たい手。 その手はハウトの手だった。 胸に穴を開け、死んでいたハウトが立ち上がりエドウィンの肩を握り締める。しかし彼はもうエドウィンが知っていた頃の同僚ではなかった。 何かの力が魂の抜けた彼の遺体を操っているだけだった。 ハウトの片手が腰にさしていた剣を握ろうとした瞬間、エドウィンは反射的に剣を抜いた。そして目の前で起きた恐ろしい事態に怯えながらも、自分の肩を握っている腕を切り取るために剣を振るった。 動く死体は片方の腕を切られても倒れない。そして残っているもう片方の腕を伸ばし、エドウィンに向かって近づいてきた。 エドウィンはすぐその意味に気付いた。騎士団のホールに彼を追い込もうとしているのだ。エドウィンは横目でホールの奥を見た。 神の姿をした存在の視線が彼の方に届いた。 目が合った時間はつかの間だったが、まるで永遠のように長くて、ぞっとする瞬間だった。神の姿をしているくせに、目は憎悪や殺意に燃えているではないか!…なぜだ?ヒューマンの神ロハの姿をして、何故俺たちを憎んでいるのか。 ロハの姿をした存在が軽く顎で合図をし、跪いていた騎士達が起き上がった。エドウィンには見慣れた顔の彼らが冷たい表情で一斉に剣を抜いた。 ロハの姿をした存在の声が、頭の中に流れてくる。 「我々の仲間になるか?それともここで死ぬか?」 騎士達はエドウィンに向かって徐々に近づいてきた。見慣れた顔であるが、意志をなくした虚ろな表情を浮かべているため、一度も見たことのない知らない人であるかのように感じた。 エドウィンはすぐ近くまで寄ってきたハウトの手を振り切った。 だんだん近づいてくる仲間だった者達の手を避け、騎士団の玄関まで走ったとき、手を触れなかったにも関わらずドアが開いた。 ・次の節に進む ・次の話に進む ・次の章に進む ・前の話に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |