第一章 救援の重さ
第1話 1/2/3 ナトゥーは丘の上から目の届くかぎりのところを全部見回したが、彼が探している姿は見当たらなかった。 その不安感は彼の頭の中に暗い想像を浮かべさせ、彼は歯を食いしばり、眉間にしわを寄せた。 「大丈夫か」 後ろから聞こえたのは仲間のクレムの声だった。 クレムの方へ振り向いた瞬間、ナトゥーは熱い液体が額から顔の側面に沿って流れ落ちるのを感じた。 彼は額の傷に手を当て押した。 臨時手当として緩く巻いておいた包帯は血液に濡れ効果を失っていた。 「こんな傷なんか……」 ナトゥーは愛想悪く答えた。 クレムは肩を大きくすくめて見せた。 彼の肩や腕にも血で濡れた包帯が巻いてある。 ジャイアントの中でも大柄だと言えるクレムの体には、長い歳月を戦場で生きてきた者らしく、傷だらけだった。 それはナトゥーも同じだった。 二人は15年以上も共に戦場で戦ってきた戦友だから。 「ラークが見当たらないな」 無情な言い方ではあったが、クレムはナトゥーと一緒に丘の下に広がる野原を見下していた。 彼も友人の弟が心配になっていたのだ。 野原の隅々まで見回したが、ナトゥーの弟は見つからない。 ナトゥーの表情が固まっていた。 クレムが聞いた。 「負傷して兵営のバラックにいるのでは?」 「いなかった。」 ナトゥーの声からは不安が十分感じられた。 クレムは再び肩をすくめた。 想像できることは二つだけ。 ナトゥーの弟は戦死したか、戦場から逃げたのだ。 勇敢なジャイアントの戦士なら戦場で死ぬことを選ぶ。 それが一番名誉ある死。 仲間を捨てて戦場から逃げた者は一生消せない不名誉なレッテルが貼られる。 だが、家族や本人がその対象ならそれは簡単に判断することではなくなるのだ。 ・次の節に進む ・次の話に進む ・次の章に進む ・前の節に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |