第一章 救援の重さ

第10話 1/2/3

トリアンは慌ててキッシュの方へ走った。
近づくと、信じられない光景が彼女の目に映った。
ドアの内側で背を向けていた男の体には大きな穴が開いていた。

キッシュは片手でその男の肩を掴み、もう片方の手をその男の体にできた穴を押し入れていた。トリアンは息を呑み、そして震える声で聞いた。

「あ、あなたが、こうしたの?」

穴の中に押し入れたキッシュの腕は、力が入って筋肉が膨れ上がっていた。
彼の腕は男の体を貫通し、その体の持ち主の腕を握り締めていた。
男が手に持った剣を使えないようにしていたのだ。

その男の背中や開いた穴を見て立ち尽くしていたトリアンにキッシュは怒りがこもった甲高い声で話していた。

神がどうだ、モンスターがどうだ、死体がどうだ…半分は汚い言葉が占めるその叫びにはトリアンに向かっての悪口も混じっていた。
バカなエルフの女だ、この男は既に死んでいた、エルフの大神官も人を見る目がない等々。

だが、それらの話はトリアンの耳に入らず通り過ぎるだけだった。
トリアンはヒューマンの男の背中に開いた穴やキッシュの腕で隠されて狭くなった視野から覗き見えるヒューマンの青年に集中していた。

自分の胸を押さえている彼の両手は血だらけだった。怯えている、そして混乱している顔。今の状況を信じられないと言わんばかりの表情。

そのヒューマンの青年と目が合ったとき、トリアンは彼が何とつぶやいているかが分かった。


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