第一章 救援の重さ
第3話 1/2/3 戦死した弟のことで悲しむ母親の顔を見るのはつらい。 弟の死が誇り高いものだったということは母親には何の意味もないことだろう。 結局頭を見つけられなかった弟の遺体が思い浮かんだ。 その遺体ですら持って来ることが出来なかったことも母親にとってはなんともいえない悲しいことだろう。 ナトゥーは腕につけた二つの腕輪に優しく触れた。 一つは自分のもので、もう一つは死んだ弟のラークのものだった。 戦士会の集会室の方に歩きながらナトゥーは二つの腕輪があまりにも重く感じられた。 戦場で振るう二つの剣よりもっと重く感じられた。 状況の報告が終わるや否や戦士会は解散した。 ナトゥーとクレムは戦士会がすぐ終わったことに安心しながらも、状況の報告のためだけに戦場で戦っている部隊長を呼んだことに腹をたてた。 二人は苦笑いをしながら集会室を出た。 集会室のドアの前にはまだ少年の顔をした青年が立っていた。 彼は二人に近づき、会釈した。 「ノイデ様のお呼びです。」 小声で囁く青年からは回りの目を避けようとする気配が明確に感じられた。 戦士会は解散したのに、戦士会の首長に呼ばれる理由はなぜだ、と聞きたかったが、その青年はそれを聞く間も与えてくれない。 いつの間にか歩き始めた青年の後を追って、ナトゥーとクレムは戦士会の裏にある小さな部屋に向かった。 戦士会の首長であるノイデは戦場での豊富な経験を持ち若者に負けない体力の持ち主だった。 もう戦場に出ることのない老いた将軍だが、若者に負けないがっしりとした体つきに、経験からの賢明さまで備えた者だ。 およそ10年前、モンスターとの戦闘時に片目の視力を失い、残った片目は腰につけた破壊力のありそうなセプターと共に前より鋭い力を発していた。 ノイデはその鋭い片目でナトゥーとクレムを観察するかのように眺めた。 彼の顔からは二人を迎える嬉しさなどは少しも伺えなかった。 ノイデは二人の戦士の挨拶を適当に流し、口を開いた。 ・次の節に進む ・次の話に進む ・次の章に進む ・前の節に戻る ・前の話に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |