第一章 救援の重さ
第4話 1/2/3 神殿は誰にでも開放された場所だからだ。 しかし、今要塞の神殿の門は誰かが入るのを拒むように固く閉じられている。 そしてその閉じられた門の内から、鐘の音が依然として激しく鳴り響いているのだ。 エドウィンは大きく深呼吸して剣を握りなおした。 エドウィンとハウトはそっと、神殿の門に近づいた。 二人の騎士は門の取っ手を1つずつ握り、思いきり力を込めた。 開けられそうになかった厚くて重い門は意外と簡単に開く事が出来た。 夜明けの弱い光が神殿の中を照らす。 そしてその光に背を向けた人が1人、空中に浮かんで揺れていた。 首を綱で絞められて、四肢がだらりと垂れ下がっている。死体だ。 神殿の一番奥にある広い一室には、オンやエドネの石像が安置されていた。 銅の鐘から垂れていた綱にかかっている死体は、奥に見えるオンとエドネの石像をその体で隠すように激しく揺れていた。 はっと動きが止まっていたエドウィンは、神殿の中へ駆けつけて、揺れる死体の動きを止めた。 鳴り続けていた鐘はさらに数回弱い音色を発した後、ようやく止まった。 エドウィンはその死体を抱いたまま神殿の外の方を見た。 ひどい衝撃を受けたらしく、ハウトは崩れ落ちるようにその場で座してロハに祈っている。 エドウィンは彼に向かって大声で叫んだ。 「ハウト!騎士達を呼んでこい!今すぐだ!」 ハウトはもがきながら立ち上がり、後ろに下がった。そしてやっと騎士団の詰め所の方へ走り出した。 エドウィンは死体から離れて少し後ろに下がった。 たぶん自分の顔もハウト同様真っ青になっているだろう。エドウィンは自分が動揺している事に気付いてはいたが、すぐに鎮める事は出来なかった。 彼はまだ自分の目で目撃したことが信じられなかった。まだ夢を見ているのかとも思った。 グラット要塞の総司令官ヴィクトル・ブレン男爵が、胸に大きな穴が空いた遺体となり、鐘の綱に吊り下げられ揺られていたのは現実の事なのか? エドウィンは何人かの兵士と力を合わせヴィクトル男爵の死体を綱から外して床に降ろした。 当直中だったのか、武装したままの兵士が、自分のマントで総司令官の遺体を覆い、目を瞑らせた。 遺体が見えなくなったことで、ようやくエドウィンは気持ちを落ち着かせる事ができ、壁に体をもたれかけさせた。 ・次の節に進む ・次の話に進む ・次の章に進む ・前の節に戻る ・前の話に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |