第一章 救援の重さ

第8話 1/2/3

フロイオン・アルコンが単なる補佐だと思っていたナトゥーは驚くしかなかった。
これまでナトゥーはフロイオンが補佐としての働きもしっかり出来ない生意気なダークエルフ青年だと思っていた。

クレムから彼の正体を聞いてからはもっといらいらした。ずるいダークエルフにからかわれたと思い、自然と表情が強張った。
ジャイアントの国ドラットの首都エトンは山裾から山の斜面へと伸びるように建てられた都市。そのエトンの一番奥であり一番高いところに王宮や戦士会の建物が立っていて、その下に都市が広がる。戦士会の建物から出たナトゥーの目の前にエトンの全景が広がっている。

岩を削って作った堅固な都市。昔から数多くのジャイアントがその岩の壁を削って整えた美しい彫刻で埋まっている。
ナトゥーはこの都市で生まれ育ち、子供の頃からこの美しい岩の都市を愛していた。彼の父親は同族や国を守るために戦った末戦死し、彼の弟のラークもモンスターとの戦闘で戦死した。

ナトゥーもこの国のために戦って、いつ命を落とすか知れない運命。命が惜しいと思ったことはない。
それより大事なのはジャイアントとしての名誉や誇り。いつどこで攻撃してくるか分からないモンスターと戦って勝利を得るうちに誇りを失わず名誉を手に入れる事もできた。
だが、長い伝統を守ってきたジャイアントの大地にもいつしか変化の風が吹き始めているのだ。

「ナトゥー、任務は終わったようだな」

ナトゥーは自分に話かけた声の方に身を向けると同時に礼儀正しく挨拶をした。声の持ち主はノイデだった。
ずいぶんと年を取った老戦士にもかかわらず、依然として若い頃の体を維持している戦士会の首長は、戦士会の建物から出て、ナトゥーの方へまっすぐに歩いてきた。
ノイデはナトゥーの隣に並び、ナトゥーと同じくエトンを見下した。
しばらく沈黙が続き、老兵は長い溜息を付いた。

「この都市はもう昔のようには戻れないな。」

「ダークエルフの使者団の訪問は、私も気に食わないです」

ナトゥーの答えにノイデはうなずいた。

「そうか、若いジャイアントの中には、異種族がとにかく珍しくて、近寄っていく奴らが多いらしいが、君は違うようだな」

二人のジャイアントの間で、またも沈黙の時間が流れた。寒い北の地方では太陽ほどありがたい存在はない。
その太陽を抱きしめるように、エトンは1日中日差しを受ける角度に計画された都市。
空が夕焼けに染められ、エトンの岩の建物や城壁なども金色に輝いていた。ノイデが低い声でつぶやいた。普段の強い首長のイメージからは考えられない疲れた口調だった。

「世の中も変わりすぎちまったな。俺が君位の年だった頃には全てがもっと単純だった。モンスターを倒して同族を守り、この国を守る、それだけを考えればよかったんだ。だが、今はすっかり変わってしまった。」

「国王陛下はダークエルフと手を組もうとおっしゃいましたね。戦士会はただ腕を組んで見ているつもりなんでしょうか」


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