第一章 救援の重さ
第1話 1/2/3 ナトゥーが落ち込んでいるのも当然だった。 戦闘、そしてまた戦闘を繰り返し、その名を全種族に知らせた勇敢なナトゥーにとって、どちらがより酷いことなのか、クレムは横目で自分の友人を見つめた。 突然ナトゥーの口から長いうめき声が流れた。 足から力が抜けていたが、肩は固まっている。 ナトゥーはゆっくりと足を運び、丘を降りていく。 やっと血の止まった額の傷がまた開かれ、彼の顔に流れた血が細い線を作っていたが、彼はそれに気づいていないようだった。 ナトゥーの足が止まったのは、昔ここで命を落とした、名も知らない戦士のために立てた墓石の前だった。 墓石に身を寄せて倒れている若い青年が見えた。 まるで激しい戦闘に勝利し、その場に座って休んでいるかのようだった。 勝利を収めたという満足感から笑っているのかもしれない。 だが、勝利の喜びで微笑んでいるはずの顔はどこにもなかった。 碑石に身を寄せていたのは、首が切られて頭の付いてない死体だった。 ナトゥーはその遺体の手首を握った。 その手首には金属で飾られた腕輪がかけられていた。 腕輪の金属は夕暮れの日差しを浴びて赤く光っている。 ナトゥーの表情が歪んだ。 彼は冷たくなった遺体を抱きしめた。 ナトゥーの手首の腕輪と金属飾りがぶつかり、泣き声のような音を出した。 それはナトゥーとラークの母親が、戦場に向かう二人の息子に渡した腕輪だった。 全ジャイアントの神であるゲイルに、幾日も夜を更かして祈った母親の愛情がこもったものである。 弟の遺体を胸に抱いたナトゥーの口から咽ぶような泣き声が漏れた。 クレムは苦虫を噛みつぶしたかのような顔で、空を仰いでつぶやいた。 「ジャイアントを守る偉大なる神、ゲイルよ。仲間の名誉のために戦い、死を迎えたものがここにおります、彼の魂が神に戻り…」 「黙れ、そのゲイルが、神が一体何をしてくれたっていうのか!」 名誉ある死を追悼するための祈りはナトゥーの叫びのせいで途絶えてしまった。 そして、いつの間にか回りを囲んでいた若いジャイアントの戦士達が不安な表情でナトゥーを見つめていた。 ナトゥーは顔を歪ませたまま若い戦士達のほうへ振り向いた。 まだ少年の顔をした若い戦士達。 命を落とした自分の弟と同じぐらいに若い。 彼はこれまで数え切れないほどの若い戦士を見てきて、覚えられないぐらい多くの死を見てきた。 今ここにいる者の中で、明日、そして明後日まで生き残れる者は何人いるだろう。 首の奥から熱い何かが込み上げてくるのを感じながら、ナトゥーは顔をうつむかせた。 いつしか彼は傍目を気にせず大声で泣き叫んでいた。 ・次の話に進む ・次の章に進む ・前の節に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |