第一章 救援の重さ
第10話 1/2/3 「全ての父なるオンよ。ヒューマンを見下ろすロハよ…この悪夢から目覚めさせてください。どうか、夢から覚めますように…」 急に怒りの感情が湧いてきた。トリアンは歯を食いしばり、両手を合わせて呪文を唱えた。 夢じゃない。 ただの悪夢であってほしいと私も願ってるけど、もうこれが現実なのよ! あなたが助けを求めるその神の一柱とてあなたを助けてくれるものはないよ!! キッシュとトリアンはそのヒューマンの青年を連れて、動いている死体で占められた要塞からようやく抜け出すことができた。 そして追っ手から逃れるために洞窟の中に身を隠した。グラット要塞での事件と同時に何故か急に曇ってきた空から、大粒の雨が降り出した。 トリアン達を保護する雨なのか、それとも壊滅されたグラット要塞のための涙なのか、それは分からない。 トリアンはヒューマンの青年を助ける途中で見た色々な光景を思い出し震えていた。 大きな穴が開いたまま動いている騎士や要塞に散らばっていた死体より怖いもの。 それは神という姿をした憎悪。 トリアンが目撃し、ヒューマンの青年も見たはずのその神は、ロハン大陸で生きている全生命に対しての憎悪を溢れんばかりに撒き散らしていた。 キッシュはグラット要塞内に偽者の神がいるって言っていた。偽者の神…でもリマ・ドルシルはそれらが偽者とは言っていない。 ロハン大陸の生命に憎悪を抱いているようだし、彼らが偽者であったほうがまだましかも知れないが・・・。 「あなた達は・・・誰ですか。エルフと…そして異種族の方が何故この地域まで…」 ヒューマンの青年エドウィンが聞いた。トリアンは彼の声に自分が現実に戻った気がした。 エドウィンはトリアンとキッシュを凝視した。 彼はデカンには初めて会ったようで、キッシュを何と呼べばいいのか分からない様子だった。 まるでついこの前までのトリアンのように。 「改めまして紹介します。私はエルフのトリアン・ファベル。ヴィア・マレアの魔法アカデミーの生徒です。そしてこちらはデカンのキッシュです。」 「ああ、エドウィン・バルタソンです。 僕はデル・ラゴスでロハを信じる聖騎士団の一員ですが…」 トリアンの話を聞き自己紹介をしたエドウィンはキッシュの方に目をやった。 「この大陸の父なるオンが自ら創造したドラゴン、その末裔が我々デカンだ。」 キッシュが錆びた金属を擦るような声で説明した。 エドウィンは顔をひそめ、ため息をついた。 「ドラゴンの末裔…って。もうどんな話にも驚く事はないと思います。」 信じられないというような顔だった。 トリアンはエドウィンのその混乱した感情を分からなくもなかった。 ・次の話に進む ・次の章に進む ・前の節に戻る ・前の話に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |