第一章 救援の重さ

第11話 1/2/3

「ところで、突然敬語ですか、もっと親近感のある話し方でしたのに」

「…その節は失礼致しました、お許しを」

ナトゥーはもう一回フロンに会釈をした。ダークエルフ貴族の青年は妙な微笑を浮かべた。
ナトゥーはその微笑を不快に感じた。何を企んでいるのか、お前達ダークエルフは。

「少し歩きませんか?ここの冷たく澄んだ空気を吸い込めるのももうそんなに長くはないですし。」

フロンは言うと同時に歩き出した。散歩とは言っても城の前の広場を行き来するだけだ。
異種族の使節団に許された空間はそんなに広くない。
ナトゥーはスタスタと歩きフロンの後を追い、並んで歩き始めた。

「使節団の仕事は終わったのでしょうか。いつお帰りになるんですか」

「いいえ、今度の訪問の目的を達成してはいません。ですが、すぐ達成できると思います」

ダークエルフの青年の微笑には自信が滲んでいた。
ナトゥーは顔をひそめ足を止めた。

「限りなく出没するモンスターを相手にすることで手がいっぱいです。あなた達は我々の国王をそそのかしてどうするつもりですか?
何を企んでるのです?」

言ってしまった後に、すぐ後悔した。国家間交流の目的で訪問した異種族の使節団に言うべき言葉ではない。
ましてや大声を出して言うことでもない。

しかしナトゥーを振り向いたフロンの顔はまだ微笑を浮かべていた。

「遅かろうが早かろうが、この大陸は戦争に巻きこまれるでしょう。
もうこの大陸は混沌の気運に包まれています。
いずれ私達はモンスターにではなく、お互いに向かって剣を振るうことになるかもしれません。
ご存知ですよね、軍の部隊を率いるお方ですから。」

フロンの顔から徐々に笑みが消えた。
真剣な顔になったダークエルフ青年の目が光った。

「先に動き出す者が勝つのです。そして私達は先に動くつもりです。
誰よりも先に…ただ、勝利のために」


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