第一章 救援の重さ
第7話 1/2/3 「お願い、トリアン。あなたは優秀な生徒で、才能ある魔法師です。私の杞憂にすぎないならいいのですが…そんなに簡単に終わることではないと思います。あなたに手伝ってほしいのです。」 こんなことだと知っていたら断ったのに・・・。 この仕事を頼んできたリマ・ドルシルがヴィア・マレアの最高神官であっても、リマ・ドルシルと魔法アカデミーの校長がトリアンの実力を認め推薦したとしても、他に適任者を探して欲しいと断ったのに。 何故か楽しそうなキッシュとは違って、トリアンは誰かと戦わなければならないということ自体が嫌だった。 エルフにとって人に怪我させたり、人から怪我させられたりすることよりも不快なことはない。 要塞の入口から近いところに岩のでっぱりや草の藪があった。 キッシュはそこに身を隠し、トリアンを待っていた。彼は急に真剣で怖い表情になり要塞の奥を覗いていた。 やがて着いたトリアンは要塞の奥から流れてくる気により息が詰まってよろけてしまった。それは神の力や自然の気運を利用した魔法を使うエルフには耐えられないほど暗い気運だった。神の気運、しかし神聖さを失った暗い気運。大神官リマ・ドルシルの話は事実だったのか。 「神々はもう私達に背を向けるでしょう。私達を恨み、その恨みから私達をこの世から消そうとするでしょう。」 トリアンは体が震えてくるのを感じ、自分の肩を抱いた。キッシュはトリアンをちらっと見て、長い指で要塞の中を指した。 要塞の入口は通常ではありえないほど開け放たれていた。 そしてその中には幾つかの影が動いていた。 吹いているのかどうか気付かないほど弱い風に中に、生臭い匂いが混じっていた。血の匂いだ。 何故かヒューマンの兵士達はお互いの命を狙い、凄惨な戦いを繰り広げていた。キッシュがトリアンの肩をたたき、指で空を指した。 トリアンはその指先が指すところへ目をやった。日が昇ってからあまり時間が経っていないのに、周りはだんだん暗くなっていく。 特にグラット要塞を中心に黒雲が集まっていた。 黒雲は要塞の上空で大きく渦巻いていた。キッシュの指先が今度は要塞の向こうにある野原を指した。 遠くから砂煙が立っている。エルフ特有の鋭い視覚によりトリアンはその砂煙が何によって起きているのか分かった。 大規模のモンスター部隊がグラット要塞に向かって走っていた。城門をいっぱいに開き、まるで走ってくるモンスター部隊を歓迎しているようなグラット要塞に向かって。 ・次の話に進む ・次の章に進む ・前の節に戻る ・前の話に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |