第一章 救援の重さ
第9話 1/2/3 男の方が不満げに言った。 「追われているかもしれないのに、火を焚くのは何故だ?」 「だけど、この人ひどく怪我してるじゃない。」 「手当ては終わったはずだ。その坊やも騎士らしいし、鍛えてるから大丈夫だろう。 愚図愚図している場合じゃないんだ。」 女の抗議は変わらない甲高い声に埋もれてしまった。 怪我したんだ…騎士…女と奇妙な声。 止まっていた頭が回り始めた。彼はばらばらになった記憶をつなぎ始めた。 要塞の神殿にぶら下がっていた総司令官ヴィクトル、おかしくなった騎士達、胸に穴の開いたハウトの遺体。 ホールの中で光っていた存在…ヒューマンの神ロハの姿をしたその存在の、憎悪で燃えていた目。 エドウィンは体を起こした。全身に痛みが走る。思わず呻き声をあげてしまった。 座っていた女が驚いてエドウィンの方を見た。 「まだ安静にしていてください。治癒魔法を使って手当てしましたけど、まだ痛みは消えていませんから」 心配そうな表情のその女の細い目と長い耳、エルフだった。 下手なロハン語で自分の意識の中に話しかけたその声。 トリアン・ファベルという名前だったっけ。 「起きたのか、坊や。 思ったより早くないか。」 甲高い声が聞こえた。 洞窟の入口から入り込んでいる光を背に浴びた影がだんだん近づいて、たき火の明かりでその姿を見せた。 彼はエドウィンが知っているロハン大陸のどの種族とも違う外見の人だった。 「どういうことだ?要塞は?騎士団はどうなったんだ・・・」 「そこで支配されなかったのは君だけだぞ、坊や。」 エルフの女はうつむき、甲高い声の男が応えた。 哀悼や同情の表情を浮かべるトリアンとは違い、その男の顔からは感情が見てとれない。 「だから、君がグラット要塞の唯一の生存者だ。」 ・次の話に進む ・次の章に進む ・前の節に戻る ・前の話に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |