狂気を運ぶ暴雨

第5話 1/2

カエールは今も泣いているアリエを抱いたまま家に向かった。
カエールに抱かれながら帰るあいだにも、アリエはずっと泣いていた。
家に入って、ベッドにアリエを寝かせたカエールはその涙を拭いてやりながら言った。

「まだ誰かが死んだ訳でもないのに、どうしてそんなに悲しそうに泣くんだ?」

「でもカエールは行くつもりでしょう。敵軍が要求しているのはカエールの身柄だってことぐらい、私にもわかるよ」

「私が行かなければ全員が死ぬことになるぞ。それにヴィア・マレアに行くとしても、必ず死ぬとは限らない。
多分、殺される代わりに死ぬまで牢獄に閉じ込められるだろうさ」

「同じことじゃない!」

アリエはまた枕に伏せたまま咽び泣く。
カエールは優しくアリエの頭を撫でながら言った。

「同じではない。今の我々は多勢に無勢だから彼らの要求を呑み込むしかないけれど、
ジャイアントの支援軍さえ到着すればエルフたちに私の釈放を要求することも可能だ。
私がエルフたちを殺したのはあくまでも正当防衛だったから」

「嫌だよ!このまま離れたらもう二度と会えなくなるような気がするの!他の方法を探してみましょう、ね?」

「心配するな。お前のためにも、私は必ず生きてカイノンに戻る」

窓から入る初夏の日差しが二人を包む空気を優しく暖めていた。
ベッドに横たわりカエールに抱かれたまま泣いていたアリエは、疲れ果ててそのまま眠りついた。
カエールはアリエが深く眠りついたのを確認した後、用心深くベッドから立ち上がって家を出た。
家の前ではセルフがしゃがみ込んでタバコを吸っていた。
家から出るカエールを見たセルフはぱっと立ち上がって何か言おうと口を開いたが、結局何も言えなかった。

「後は頼んだぞ」

セルフとすれ違いながら、カエールが低い声で言った。セルフは何も言えないままただ涙を流した。
カイノンの入り口に向かう道に、ハーフエルフたちが並んでカエールを見つめていた。
カエールは前を向いたまま、堂々と歩いた。
カイノンの入り口から出ると、武装した連合軍の本陣が見えた。
数え切れない程のエルフとヒューマンの兵士たちがカイノンを取り囲んでいる光景を見て、カエールは今の屈辱をいつか必ず返してやると心に誓った。


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