狂気を運ぶ暴雨
第10話 1/2/3 「カエール・ダートン…カエール・ダートン…息子がカイノンにいたのか。 それで、彼はどうだった?彼女に似ているならきれいだろう?」 「そうです。彼はハンサムでした。茶色と金髪が混ざっていて、子爵のような茶色の瞳でした」 「俺と同じ茶色の瞳…」 いつの間にかゼラード・ダートン子爵の声には涙が混ざっていた。 「その子は…カエールは、結婚はしたのか?」 「まだ結婚はしていませんが、アリエという美しいフィアンセがいました。来年の春に結婚する予定だそうです」 「そうか…もう結婚する歳になったのか。弓はどうか?うまく使えるのか?」 「カエールは、ピル傭兵団の死神と呼ばれていました。多分弓の腕が優れているからだと思います」 「はははは。血は水より濃いものだ。俺の息子だ。ハーフエルフの中でも最高の実力を持っているはずだ」 楽しいそうに笑っている父親の姿を目の前にしながら、カエールは自分がカエールだと言いたくなった。 しかし、罪人の姿で父親に出会うのはプライドが許せなかった。 「もしかして…カエールの母親とも出会ったことがあるのか?」 カエールは少し迷ったが、答えた。 「いいえ。しかし…聞いた話では、カエールの母親は一生父親のことを懐かしがっていたそうです」 ゼラード・ダートン子爵の目から涙が一粒落ちるのをみながらカエールは胸が泣くような苦痛を感じた。 「そうか…」 総司令官は椅子から立ち上がり、お礼を言った。 「お陰で長い間胸を痛ませていた話が出来た。ありがとう。今日ヴェーナから着た軍と話が終わった。 明日の朝にはヴェーナに向かって出発するだろう。 どうか君が無事にカイノンに戻れるようにと祈っている」 ・次の話に進む ・次の章に進む ・前の節に戻る ・前の話に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |