運命の分かれ道

第3話 1/2/3/4/5

キッシュは納得いかない表情でハエムを見上げた。
ハエムはドアに向かいながら話した。

「罪を犯した人はその代価を必ず払うものだと信じています。
時が経てば大長老の仕業についても罰が下るはず。
まずは落ち着いてください。キッシュ様の安全が第一です。では私は失礼します」

ハエムが部屋を出てから、キッシュは低く文句をつぶやきながらベッドに横になった。
天井には渦を巻き、体を隠している青い龍の絵が描かれている。
天井から見下ろしている龍の紫の目は、なぜか先の侍女の目を思い出させた。

「許せない…」

キッシュはいきなりベッドから飛び出すように立ち上がった。
国王の次に地位が高い大長老としても、罪のない他の人を利用して悪行を図ることは卑怯だ。
キッシュが最も許せない人間は卑怯な行いをする人間である。
キッシュはマントをかけて、他の人から目立たないように注意しながら、カルバラ大長老の家に向かった。
自分の手で処罰するつもりではない。大長老が自らアルメネスから離れるように話すつもりだった。
外からの威嚇から内部を守るべきの今こそ、静かに進めたいと思っていたからだ。
カルバラ大長老は宮からあまり離れていない。
高い壁に囲まれ、青い真珠と白い珊瑚に飾られている2階建ての邸宅は、人目で大長老の家だと分かるものであった。
2階の部屋に光がついているところをみて、人がいるのは確実だが、正門ドアを叩いても反応がなかった。
何回か叩いてみたが、沈黙だけが返ってきた。

‘居留守をするつもりか…’

わざと自分を避けているのかと思い、気に障った。
どうしても大長老に会う必要があると考えたキッシュは、マントで紐を作った。
紐の先に腰につけていた短剣を結び、思いっきり投げた。短剣が塀の上にある石像にひっかかり、固定された。
キッシュは塀を登った。1階に光が着いているところがないせいなのか、塀の内側は暗くて静かだった。
1階の玄関ドアを叩いてみたが、1階に人の気配は感じられない。
取っ手をまげてみると以外と錠は開いていた。キッシュは剣を握り、静かに中に進入した。
大きな窓を通して入ってくる月の光に室内の様子が確認できた。2階に上がる螺旋型の階段が目に入った。
キッシュは音を立てず階段を上った。2階には部屋が多かったが、先見えた光は一番奥の部屋からだった。
ドアを叩こうとしているところに覚えのない声が聞こえてきた。


・次の節に進む
・次の話に進む
・前の節に戻る
・前の話に戻る
・前の章に戻る
・目次へ戻る