第二章 神を失った世界
第2話 1/2/3 ハーフリングは自分達が住む地域から遠くに旅立つことなどといったことは好まない。 そのため、彼らを他の国で見かけることは滅多にないことだ。 聖騎士団からもそういった話を聞いたことがあるエドウィンは、ハーフリングの国リマに着くまでハーフリングを見かけるとは思いもしなかった。 だが、今彼の目の前にはハーフリングがいる。 しかもここはヒューマンの領土内なのに。 そしてそのハーフリングの女性は厳しい目でエドウィンを睨みつけている。 「ニンジン、残さずに全部食べるのよ。まだ若いくせに偏食するなんて情けないよ」 それに厳しい言い方で小言まで言われている。 エドウィンは顔をしかめた。 「あの、タスカーさん。私がニンジンを食べないということはあなたには関係のない…」 「言うこと聞きなさい、エドウィン。私を助けてくれた人に悪いことを言うわけがないでしょう? さあ、食べて」 エドウィンが何を言ったってそのハーフリングは聞かない。 可愛い顔立ちに似合わない厳しい表情をしているだけだった。 エドウィンは溜息をついた。 アインホルン聖騎士団は、エドウィンにグラット要塞壊滅の真実について秘密にしておくことを強要した。 神の姿を見かけた、神が人類を抹殺しようとしている、主神オンが消滅した、聖騎士団の騎士達がモンスターと化した、といった話しはただでさえ不安なこの時期に、人々はさらなる混乱に落ちていくだろう。 しかし、聖騎士団を一番惑わせたのはデカンに関する報告だった。 50年前に全て消滅したと知られたドラゴンが神の手によって消滅され、新しい種族である彼らの子孫がこの大陸に存在して神を憎んでいる、という話しは神への変わらない心を基本に作られた聖騎士団としては絶対信じたくない話しだった。 しかもドラゴンは最高の神オンがその手で創った完璧な生き物だと知られているのに。 結局グラット要塞壊滅の件はモンスターの大部隊が要塞を襲撃し、聖騎士は勇敢に戦った末、戦死したということになって外部に知られた。 ・次の節に進む ・次の話に進む ・次の章に進む ・前の話に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |