第二章 神を失った世界

第2話 1/2/3

一方、エドウィンは聖騎士団と神殿に何回も呼び出され、
彼が目撃したことは幻覚か作り話だということを認めるように強要された。
エドウィンは自分が目撃したことや経験したことが嘘で、デタラメで、幻覚かもしれないとは絶対認めたくなかった。

彼はまだはっきり覚えている。
要塞の塔にぶら下がっていたヴィクトル・ブレンの遺体、その体に大きな穴。
意志を奪われコントロールされていた騎士達。
エドウィンに助けの手を差し伸べた独特な姿のデカン族キッシュ。
そしてエルフのトリアン・ファベルの大きな紫の瞳。
どうやってその全てを否定することができるのか。
人々を混乱させる真実を知っているエドウィンは聖騎士団の中で悩みの種になった。

結局エドウィンには国境付近の偵察任務が与えられた。
口実は偵察任務だが、実際は聖騎士団から追放されるような処分だった。
誰にも信じてもらえない真実を心の中に抱いて、エドウィンはアインホルンを去っていった。
最初に彼が向かったのはハーフリングの国リマの方だった。

色んなことが複雑に絡まった頭の中を一掃するために、今度のことに関する場所の方には行きたくなかった。
南のエルフの国ヴィア・マレアも、北のバラン島にあるデカンの国も、そしてグラット要塞の方も避けたかった。

首都アインホルンから遠くなればなるほど治安状態はひどかった。
人もほとんど見当たらなくなった。
国の全地域にばらばらになって住んでいた人々も聖騎士団の保護を受けることができるアインホルンに向かって故郷から離れているためだ。
デル・ラゴスの領地内にあるセルカ天体観測所付近の町に着いた時、
エドウィンは小さな騒ぎに出会った。

全国的に一日数回も騒ぎが起きているのがこの町の実情である。
一人旅をしている女性にちょっかいを出している酔っ払いのせいで騒ぎが起きているらしい。
フードの着いた上着を着て、顔をそのフードで隠している小さい女性は冷たい言い方で
その酔っ払い達と言い争っていた。

もし、その酔っ払いの連中の一人がデル・ラゴスの国家マークが張られた鎧を着た兵士じゃなかったら。
もし、フードを被っていて顔が見えないその女性の口から聞いたことのない異種族の言葉ではなかったら。
エドウィンは座っていた席から立ち上がらなかったかもしれない。
しかし、その女性の旅人は異種族で、彼女に迷惑をかけている酔っ払いの連中の中には
デル・ラゴスの兵士もいた。

デル・ラゴスの軍人として、騎士として、ヒューマンという種族に高い誇りを持っている青年として許せないことだった。
エドウィンはその酔っ払い連中に聖騎士団のマークを見せながら怒鳴り、追い払った。


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