第二章 神を失った世界
第5話 1/2/3 イグニスの国王の腹違いの弟として生まれ、苦労することなんかまったく経験もない人だろう。 そんな彼が追っ手から逃げられたとは思えない。 もし追っ手に見つかってもう殺されたなら? その場合はクレムが送った捜索隊と、ナトゥーが入っている捜索隊が彼の遺体を見つけただろう。 フロイオン・アルコンがまだ見つかってない理由に対してナトゥーが考えられるのは2つだった。 1つは彼がひどい怪我をして捜索隊に助けを求められない状態であること、もう1つは追っ手の目的がダークエルフ使節団の中心となるフロイオン・アルコンの誘拐であること。 ダークエルフ使節団のキャンプは妙に乱れた様子が無く、ぞっとするほどだった。 たき火の跡があるキャンプの中央には護衛兵3人の遺体が倒れていた。 後ろから近づいてきて首をやられ即死したようだった。 悲鳴や警告の声さえ出せなかったのだろう。 その他にも襲われたキャンプだとは思えないぐらい乱れていないものがいくつかある。 1つ例外なのは、キャンプの中央から一番離れたところのテント。 布を立てる柱が倒れそうになっていて、たぶん襲撃者に対する激しい抵抗があったと思われた。 それだけではなく、テントには誰かの血痕も付いている。 ナトゥーはテントの中を覗いてみた。 テントに血をつけた本人だと思われる人の遺体が倒れたテントの下敷きになっていた。 顔をみると見慣れた顔だった。 ダークエルフ使節団の中の1人だった、貴族と思われたその女性。 細めの首には見ていられないほど深い傷を負っていた。 その傷を負った瞬間の苦痛がどれほどだったのかは血がついた顔の表情からすぐ分かった。 ・次の節に進む ・次の章に進む ・前の節に戻る ・前の話に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |