第二章 神を失った世界
第3話 1/2/3 恐ろしい記憶に驚いて目が覚めたら、通常ではない空気が感じられた。 月明かりやキャンプの中央にあるたき火のせいで落とされた陰がキャンプの幕に映されている。 影を見てすぐに分かった。 同行ではない何者かが自分が休んでいるキャンプに近づいていた。 腰を伏せて足音を出さずに。 その手に持ったのはたぶん自分の心臓を狙う刃物だろう。 フロイオン・アルコンに個人的な恨みを持つダークエルフなら、ジャイアントの国から近いここであえてトラブルを起こすはずがない。 ここはジャイアントの偵察隊や兵士が来てても不自然に思われない地域だ。 なら、やはりダークエルフやジャイアントの外交に不満に思う連中に決まっている。 一番不満に思うのはエルフの国ヴィア・マレアだろうが、 自称平和主義者の気の小さいエルフらにこんなことができるとは思わない。 なら、ジャイアントを警戒するヒューマン? フロンは身動きもせずに、さっきの夢の中でと同じく静かに息を吐きながら待っていた。 しかし今の彼は幼い少年ではない。 その頃のようにただその脅威を受け入れようとは思っていなかった。 テントの入口の幕が半分ぐらい上げられ、そこから影が落とされていた。 その瞬く間にフロンはその影の持ち主のシルエットをはっきり見た。 暗殺者は女だった。 予想できなかったことに驚く間もなく、フロンは他の事にまた驚いた。 その暗殺者が手に持ったのはこれまで見たことのない奇妙な形をした武器だった。 暗殺者の右手を包むような曲線、鋭く伸びているような奇妙な形の刃が、冷たい青で光っている。 フロンは枕元に置いてあるスタッフの方にそっと手を伸ばした。 指先でスタッフを引っ張った瞬間、指輪やスタッフがぶつかって小さな金属音を出してしまった。 暗殺者は攻撃態勢を取ったのと、フロンがベッドから起き上がったのはほぼ同時だった。 しかし、暗殺者の方が動きが早かった。 自分の心臓を狙って振るわれる刃にフロンが緊張した瞬間、テントの入口から大きな叫び声が聞こえてきた。 そしてそれと同時に誰かが暗殺者に向かって飛び掛かってきた。 ・次の話に進む ・次の章に進む ・前の節に戻る ・前の話に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |