第二章 神を失った世界

第4話 1/2/3

ロハン大陸に混沌の気運に包まれて、各種族が警戒しあっている今、ダンを狙う余裕のある国はなかった。
しかし、ダンにとっては、ダークエルフやジャイアントが秘密裏に協力を図っているとの情報が入った以上、それだけは阻止しなければならなかった。
この秘密協約の情報は意外な情報源から入った。
とにかくそれは大事な情報だった。
ジャイアントの領地内でダークエルフの使節団を全滅させ、一時的には種族の会談を阻止し、結局ジャイアントやダークエルフの間にトラブルを起こすのが今回の奇襲の目的だった。
しかしさっき、その使節団の1人を逃してしまったのだ。

追うしかなかった。
足が地面に触れるたびに足首から痛みが感じられた苦しい。
しかしそんなことを気にしてる場合じゃなかった。
追って見つけて首を切らなきゃ。
ライは唇を噛んだ。
実は自分より先に暗殺の任務を終えた仲間らが、自分が逃した者を捕まえられるだろうと、甘く思っていた。
とくに一番重要な標的だったフロイオン・アルコンの暗殺は、セリノンがライの実力をテストするために、わざわざ下したのだ。
ダンのアサシンとして受け入れられるかどうかが決まるテストで、これ以上異邦人扱いされなくなる機会。
そのチャンスを逃したのは自分の優柔不断な態度のせいだ。
ディタがライの肩を軽く叩いた。怪我の痛みを彼も我慢していたので、どうしても表情は崩れてしまうそうだった。
ディタはライに向かってわざと笑って見せた。
大丈夫、そんな顔しないで。
淡い月明かりでディタの唇が何を言っているのかが分かった。
ライは少し力が抜けたようなように微笑んだ。
薄い雲から照らされていた月明かりがだんだん淡くなり、雲は風に流されていた。
5人のアサシンの影が消えてゆく月明かりと共に暗闇に埋もれてしまった。
彼らは足の音さえせずに走っていた。


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