第三章 因果の輪
第6話 1/2/3 エドウィンは銀の水筒に水を入れながら、湖を照らす日差しの輝きを眺めた。 トリアンの宿に泊まった日からずっと雨だったから、このまぶしい日差しは懐かしく感じる。 しかも宿でラウケ神団の話しを聞いた日から、タスカーの表情はずっと暗かったのでなおさらだった。 タスカーはエドウィンに明るい顔で接しようと頑張っている様子だったが、エドウィンには彼女が内心、不安を感じていることが分かる。 「久しぶりにいい天気、ね?」 いつの間にかタスカーがそばに来て、湖の中に手を浸しながら話しかけた。 「いい天気だね」 エドウィンは水筒を腰のベルトにつけながら立ち上がった。 「これまで天気が悪かったから気付かなかったけど、こんな空だからね、ハーフリングの国に入ったって、やっと実感できました。」 「そう?ランベックに着けば、本当にハーフリングの国に来たってすぐ実感できると思うわ。 そここそもっとハーフリングっぽくて、生き生きとした町なのよ。 活気についてはアインホルンなんか絶対勝てないところで、たとえばランベックの神官達は…」 それまでは明るくしゃべっていたタスカーが急に静かになった。 エドウィンはうつむいて水面を眺めるタスカーの方を見た。 神官に関する話しをしようとしたが、ラウケ神団に入ったという息子のことを思い出したようだった。 エドウィンは自分の母親もタスカーのように自分を心配しているかもしれない、と思った。 聖騎士になって、グラット要塞に派遣されたということを家族に伝えたとき、父親は立派な聖騎士になるチャンスだと励ましてくれたが、母親は何も言わなかった。 ただ目の辺りに心配の影を落としているだけ。 その次の日から母親は毎朝神殿に出てロハに祈りを捧げた。 しかし、母親の祈りは神に届いてなかったのか。 いや、それより、その日のそれは…本当にロハだったのか。 またもエドウィンの心の中には混乱が渦巻いてきた。誰よりもロハを深く信じなければならない聖騎士が神を疑うことになったということ自体がエドウィンには耐え辛いことだった。 その瞬間、東から大きな光が見えた。タスカーとエドウィンはほぼ同時に光の方を見た。 そしてすぐその光へ走り出した。 光から近いところの木に身を隠した2人は目の前に見えている光景が信じられなかった。 ・次の節に進む ・次の章に進む ・前の話に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |