第三章 因果の輪

第2話 1/2/3

その時、食堂を襲った静寂を破って、歌を歌っていたハーフリングのうちの1人が動揺した目で言った。

「俺もその話しは耳にしたことがある、モンスターが人間を攻撃するようになったのも神のせいだって」

彼の話しに隣でギターを弾いていたハーフリングが震える声で否定した。

「まさか…それが本当だったら神殿の神官が何か言ったはずだよ、だよな?」

「そ、そうだよ、シルバは絶対俺達を見捨てたりしないはずだ。」

彼の話しに同意するとも言うようにヒューマンの商人もうなずいた。

「そうだよ、神は俺達を見捨てるような方じゃない!」

彼らは噂が嘘であることを確認しあい、不安な気持ちを晴らそうとしたが、そんな彼らの会話を聞いていたハーフエルフの1人が冷ややかに言った。

「アホなやつら。神はずっと前に俺達を見捨てたんだよ、じゃないとモンスターが人を攻撃するのにだまっているわけがないぜ」

食堂にいた皆がショックを受けた顔でその声が聞こえた方向を見た。
彼は金と茶色の間程度の色をした髪の毛を垂らして、胸や腕や足を包む鎧を着ていた。
少し生意気で鋭い雰囲気のその男を、人々はピル傭兵団の使者‘カエール・ダトン‘と呼んだ。
カエールを知っている何人かの人々は彼の登場に視線を避けた。


「いや、最初から神はいなかったかもしれん、そう思わないか、聖騎士様」

急にカエールがエドウィンに質問を投げた。
エドウィンは彼の図々しい言い方に顔をしかめた。

「翼の盾や十字架…それにそのブローチは聖騎士だけがつけると聞いているんだよな…」

エドウィンは自分のブローチを見つめた。

「どうだい?神がマジでいると思うかい」

カエールはエドウィンの答えを求めてしつこくそのするどい視線をエドウィンに送っていた。
エドウィンは自分を睨むカエールの目をじっと見つめながら言った。

「いるから疑うこともできるんだろう」

カエールは彼の応えに不満そうな顔をした。

「ふむ、優等生みたいな答えだな」

エドウィンはカエールの言い方に腹が立った。

「じゃ、君はどうなんだ」

「俺?」

カエールは自分を指差して笑った。

「さあな、いてもいなくてもかまわん」

彼はくすくす笑いながらイスから起き上がった。
周りに座っていたハーフエルフの傭兵らしき者らも同時に起き上がった。

「お前は聖騎士のくせに、神への不信でいっぱいじゃないか。また今度会ったらどう変わっているか期待だな」

カエールはまた冷ややかな話しをエドウィンに投げて、傭兵団の仲間と2階に上がった。
エドウィンは聖騎士である自分が神の存在についてはっきり応えなかったことに苦笑いをした。
彼も自分が、グラット要塞の事件以来、神への疑いを抱き始めたことには気付いていた。
そしてその疑いの果てにある真実というものが彼の気を重くしていることにも。


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