第三章 因果の輪
第5話 1/2/3 「お前に付いていく気はないぞ」 「じゃ、君がその気になるまでここで待とう」 老人は座り込みフロックスの顔を見た。 「一体何の用だ、俺に!」 「君の目を見たらなんだか切なくなってな…」 老人の言葉にフロックスは顔をしかめた。 「は、切ない?」 「虚しすぎる」 フロックスの顔が固まった。 その反面、老人はにっこりと笑って人並みの方に視線を送った。 そして指で、ある商店の壁にかかっている滑車を指し、楽しそうに言った。 「ワシは発明者だ。あの滑車もワシの発明品だ。子供たちの2輪ボードもそうなのじゃ。 うちで使ってる物のほとんどがワシの発明した物だ。 今は空を飛べる乗り物を発明するのに夢中になっているんだ。」 「空を飛ぶ?それが可能だと思ってるのか」 フロックスはクスって笑ったが、老人の顔は生き生きとしている。 「不可能なことだからこそ挑戦したいんだ。発明っていうのはそんなもんじゃ。自分の夢を実現すること。 人間はその不可能な何かに挑戦し続ける存在だ。しかし君の目からそんな輝きは見られない。」 フロックスは何とも答えなかった。 いや、答えることができなかった。 何千年も生きてきた彼がハーフリングの老人なんかに説教されるなんて。 フロックスは自分が情けなく感じられ、笑ってしまった。 そんな彼を老人はじっと見ているだけだった。 そして急に笑いを止めたフロックスは鋭さを浮かべた赤い瞳で聞いた。 「お前は自分が生きる価値のある存在だと思うのか。」 ハーフリングの老人は、ハハハって笑った。 「生きる価値のない人間なんていない、って答えてあげたいけど、世の中には生きる価値のない人間もいるのじゃ。生まれないほうがいい命もいるもんさ。しかしその価値のない命だって誰かが生きて欲しいと思うなら生きる権利はあるのだ。そもそも人間が人間に生きる価値を云々する権利はない。命は自分のものだから」 フロックスは少し考えてから、また聞いた。 「俺がお前に生きて欲しいならそれも価値っていえるもんか。」 「もちろん、この使えない年寄りの体でもいいなら」 老人は膝を叩きながら大きな笑いを見せた。 ・次の節に進む ・次の話に進む ・次の章に進む ・前の節に戻る ・前の話に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |