第三章 因果の輪
第5話 1/2/3 「分からないな…」 フロックスは頭を振った。 「そんなことはもっと生きていけば分かることさ。若い君が悩む必要は無い」 老人は起き上がって体を大きく伸ばした。 「最近は体力が落ちてきてな、君みたいな青年が手伝ってくれるなら…どうせ泊まるとこもないようだからどうだ。」 フロックスはその言葉に答えずに町を行き来する人々の方を眺めた。 夕焼けが向こうの山から赤い影を作っていた。 彼は忙しそうに行き来する人々の姿が今にでもすぐ消えそうな蜃気楼みたいに見えた。 その時、フロックスの目に入ったのは小さな人間のシルエット。 そのシルエットは紫の瞳やそばかすの女の子だった。 「おじいちゃん、ここで何してるの?」 少女がハーフリングの老人に明るく聞いた。 「おー、リオナ、友達と遊んできたのか」 「うん、まだ帰らないの?今日ね、キノコをもらってきたよ」 老人はフロックスのほうをちらっと見て答えた。 「そうかい、リオナ、今日の夕飯は3人前を用意してくれるかい」 その話しを聞いたリオナはフロックスの方を見た。 「うん、でも早く帰ってきてね、お腹すいてるもん」 「うん、もうすぐ帰るよ」 少女は手を振って人並みの中へ入り、やがて見えなくなった。 「あの子は?」 その質問に老人は自慢げに言った 「ワシの孫じゃ」 「ハーフリングじゃないのに?」 フロックスは驚いた顔で聞いた。 「リオナはヒューマンの子だけどワシの孫じゃ。ワシがそう決めたから」 「お前も変わった人だな」 フロックスは苦笑いをしながら起き上がった。 力を回復するまで老人の家で休むのもいいかもしれない。 ハーフリングの老人はフロックスの考えを読んだのか。 にっこりと笑って手を伸ばした。 「ワシはディンだ、君の名前は?」 フロックスは老人を握手しながらはっきりと自分の名前を言った。 「フロックス」 老人は驚いた表情で目を大きくした。 「神の名前から名づけたのかい、変わった親だな」 フロックスの口の先が笑うように少し上がった。 「世界で一番傲慢な者だったのさ」 「ははは、君にそっくりじゃないか」 ハーフリングは笑いながら歩き出した。 フロックスはその後を追って歩きながら、聞こえない深い溜息をついた。 この町に着いた頃は自分が正しいか、ロハが正しいかを確認したいと堅く決心していた。 しかし今は人間が生きる価値のある存在なのか自分も分からなくなり、誰の正義が正しいのかはっきり言えない。 フロックスは自分の中でもその答えを探すことができなかった。 今はただロハの正義が正しくないのを願うだけだった。 ・次の話に進む ・次の章に進む ・前の節に戻る ・前の話に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |