第四章 隠された真実

第4話 1/2/3

「預言者デルピン…
もちろん知っています。
あの方こそ勇気ある預言者でした。
当時、誰も口に出せなかった、世界の終末について直接国王陛下に話した方ですから。
レゲンからヴェーナへ遷都すべきだと主張し、そのせいで他の神官達から締め出され、だんだん歴史から忘れ去られてしまいましたが・・・ 
あの方と比べたら、私はただの臆病者に過ぎません」

リマ・ドルシルの閉ざされた目がゆっくりと開かれる。
トリアンは彼女の瞳が潤んでいることに気づいた。

「私は、幼いころ主神が消滅なされ、この世界にあの方の全てが散らばるのを目撃しました。
そしてその瞬間、この世界が見えました。
それは・・・言葉ではとても説明できない恐怖だったのです。
その時、私の予知力が目覚め、お蔭で今はこうやって大神官になれましたが・・・
今も私が夢で見る物は、そのときとあまり変わりはありません」

神様は本当に私たちをすてたんでしょうか?
トリアンは、ずっと胸の内にしまいこんでいた質問を彼女に聞けなかった。
しかし、彼女はリマ・ドルシルがどういった答えをするか分かっていた。
大神官のリマ・ドルシルは「そうではありません」と答えるだろうし、預言者としての彼女は「そうです」と答えるはずだ。
しかしリマ・ドルシルとしてはどういう答えがでるんだろうか。

「予知力が目覚めてから、私は私の予言が間違いであるように祈ってきました。
今は聞いてくれる方もいませんが・・・
それでも私は絶えなく祈り続けています。
むしろ私の予言が全部間違いでありますようにと」

「大神官様・・・」

トリアンは何もいえなかった。
リマ・ドルシルの望みは、それだけでも大きな悲しみであったが、その中に含まれている意味は、絶対的な絶望であった。
預言者たる者は、自分の予言が未来の姿をそのまま見せてくることを望むが、彼女が自分の予言が間違いであると望む時は、その予告された不幸を避けることが出来ない時だけだろう。
彼女の望みが悲しく感じられるのはそのためだった。


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