第四章 隠された真実
第8話 1/2/3 「悲鳴の戦場で死んだ、偉大なるドラゴンの末裔アナン…と仰るのか?」 ハエムはうなずく。 キッシュは何気なく粛然となる気がしてハエムと共に夕焼けを見つめる。 デカンが始めてバラン島に着いて定着したころから始まったダン種族との争いは終わりが見えなかった。 幾多の若者たちが戦場を自分たちの血で色染めながら死んだ。 そのなか、アナンというデカンの少年がいた。 彼は自分の兄がダンとの争いで戦死し、その復讐のため戦争に身を投じた。 兵のために作られた鎧や兜がとても大きくて装備できなかい小さな体格にも関わらず、いつも戦場では先立って敵陣に割り込んだ。 最初は彼のその無謀さに戸惑ったダンが押されるようになり、戦争はデカンの勝利で終わるように見えた。 デカンはアナンを種族の未来を導く英雄として褒め称え、幼いデカンの子供たちは眠る前にいつも親からアナンの英雄談を聞いた。 しかし、ダンはアナンの勝利が永遠であるようにはしなかった。 ダンの君長、レアム・モネドは退却するように見せかけて、アナンを陣の真ん中に呼び寄して殺し、彼の悲鳴が響かれたその戦場に「悲鳴の戦場」という名前が付けられたことを最後に、アナンの名はデカン族の中で徐々に忘れていった。 「かの者たちは偉大なるドラゴンの末裔アナンを覚えておった」 「かの者たち?」 「ダンのことだ。 レアム・モネドが死んで、新たな君長が選ばれたあとも、彼らは未だ偉大なるドラゴンの末裔アナンを幼き英雄として覚えておった。 同じ偉大なるドラゴンの末裔である我らは、記憶の彼方に追いやったのだが、恥ずかしいことよ」 「そう…。偉大なるドラゴンの末裔アナンの妹御なら例外と思って同然であるだろう。 だが、気を付けたほうがいい。回りの視線は貴公が考えているように開かれているのではない」 「しかし、貴公はハエムよりは開かれているようだな」 ハエムはにっこりと微笑みながらキッシュを見つめる。 アナンのことを思い出して緊張が解けていたキッシュは虚を突かれたような気がした。 ハエムの視線から目をそらし、王宮を眺めながら張り切った声で問う。 「キッシュへの用件は何だ」 「貴公を王位候補者として薦めたのはハエムだった」 キッシュは驚いた顔でハエムを見つめる。 「貴公が…?」 「驚いたか?そういえば、貴公とハエムが話し合ったのはこれが初めてだな。 驚いて同然なはずだ」 「なんでキッシュを薦めたのだ」 「貴公が王になれる人材だと思ったからこそそうしたのだろう?」 キッシュが厳しく顔をしかめて冷たい声で聞く。 「偉大なるドラゴンの末裔キッシュは真剣に聞いている。 キッシュに何かを求めてそうしたのであれば、今でも遅くないはずだ。 諦め…」 「偉大なるドラゴンの末裔ハエムは真剣に貴公が国王になるべきだと思っておるのだ」 先までとは違って、ハエムの目つきが鋭く光った。 「ロハン大陸に対する神たちの攻撃は激しくなっている。 今でも偉大なるドラゴンの末裔デカンは多種族と力を会わせざるを得ない。 もはや優越感だけを持って、独りで対抗しようとしては偉大なるドラゴンの末裔のデカンの滅亡を招くことになるかも知れぬ。 しかし偉大なるドラゴンの末裔デカンの多くは、偉大なるドラゴンの末裔ハエムと同じ考えではない。 偉大なるドラゴンの末裔デカンは主神の創造物から生まれたゆえ、下位神の創造物より遙かに優秀なので、他の種族との連携が無くても神たちに対抗できると思っておる。 カルバラ大長老がその代表的な人物なのだ。 なので、かの者は偉大なるドラゴンの末裔ドビアンを薦めた」 「偉大なるドラゴンの末裔キッシュが… 何ゆえ貴公と同じ考えであると確信するのか?」 ・次の節に進む ・次の話に進む ・次の章に進む ・前の節に戻る ・前の話に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |