第四章 隠された真実

第2話 1/2/3/4

小姓が二人の前を歩き出し、キッシュとドビアンは彼の後ろに付いてレブデカに向かう。
丘から降りるとドラゴンの頭の彫像が視野に入る。
いつもこの彫像を見ながら都に入るたびに、キッシュは母体であるアルメネスが自分に何かを囁いているような気がした。
耳を澄ませば彼女の声が聞こえるだろうか。
もしやそれは話ではなく、苦しみ満ちた叫びかも知れない。

「貴公にはがっかりした。」

キッシュは友を見る。
ドビアンは前方の王城に顔を向けたまま、キッシュにしか聞こえないくらいの小さな声で呟いた。

「偉大なるドラゴンの末裔キッシュなら… 
ドビアンが選ばれなくても安心できると思っていた。
むしろ、キッシュの方が、
ドビアンより遙かに向いていたと思ってもいた。
だが、今は違う。」

「何の話だ?」

ドビアンは口を挟んだまま何も答えない。
いつの間にかドビアンとキッシュは小姓に付いて城内に入っていた。
蒼い海の中の風景が目の前に広がり、国王フェルデナント・ドン・エンドリアゴを中心に、大長老や長老たちが二列に並び立っている。
キッシュが老い虎と呼んでいるカルバラ大長老が国王の左側に立ち、比較的に若い方の青髭の長老、ハエムが国王の右側に立っている。
何十年間のダンとの戦争から休戦に導いたハエムを、人々は「嵐の目」と呼んでいた。
彼は白い顔に細長の青髭を垂らし、穏やかな顔で静かに自分の席に立っているだけだったが、なぜかむやみに無視できない気配が彼の周りに立ち込める。
その気配の源は強い武力でなく、彼の三寸の舌だった。
いつもは無口な彼だったが、いったん話を始めると、だれもが彼の意見に従うしかない気がするという。
そんな彼の能力が発揮されたのは、ダンとの平和交渉のときだった。

悲鳴の戦場でデカンの幼い少年だったアナンが死んだとき、デカンとダンは戦争の残酷さに目を覚まし、無意味な殺戮を終わらせようとした。
しかし、どうすれば終われるかが分からなかった。
あまりにも長く続いてきた戦争だったので、果たして簡単に平和交渉が出来るのか、予測が付かなかった。
国王と長老たちは昼夜を分かたず悩んでいた。
三日目の昼夜も過ぎたある夜、一人の若い青年が会議場に入り、自分をダン族の君長に会わせてくれれば、平和交渉を成し遂げると言った。
それが青髭のハエムだったのである。
その場にいた者は皆自分の耳を疑うしかなかった。長老たちはハエムに無謀なことだといい、諦めさせようとした。
しかし、彼は一歩も譲らず自分の意見が受け入れられるのを待った。その姿を見た国王は、長老たちの激しい反対にもかかわらず、彼の意見を受け入れた。
朝日が眠っている大地を起こす夜明けに、デカン族とダン族が見守る中、ハエムはダンの陣地まで一人で歩き出した。
彼はダンの兵士たちに囲まれ、君長のレアム・モネッドがいるという幕営に移された。声を出す者は誰もいなかった。沈黙だけが両種族を包む。
時間の流れにも鈍くなったころ、ハエムは君長レアム・モネッドとともに幕営から姿を現した。
レアム・モネッドはデカン族に向け、大きな声で平和交渉を受け入れると叫び、そうやって両種族は平和交渉を結んだ。

ハエムがどうやってレアム・モネッドを説得したのかに関しては誰も知らなかった。
ただ、ハエムの話を聞いたレアム・モネッドが涙を流したという噂はキッシュも聞いた事がある。
キッシュは成人になって王城に出入りしてから、何回か彼を見たことはあるが、本音が分からない人物だとしか思わなかった。

「よくぞ参った。」

フェルデナント・ドン・エンドリアゴが威厳のある声で二人を迎える。
ドビアンとキッシュは腰を折って挨拶をした後、跪いた。


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