第四章 隠された真実
第16話 1/2/3/4/5/6/7 フロイオンはそれ以上何も言えなかった。 今まで自分のために大勢の人が命を失った。 しかし、エミルは自分と偶然出会っただけで命を失ってしまったので、エミルの死に対するフロイオンが感じる責任は重かった。 タスカーは向かい側に座っているフロイオンの手をそっと握る。 「エミルの死にあなたが苦しむ必要はないわ。 それがあの子の運命だったのよ。 あなたが無事だったことを知ったら、きっとあの子も喜ぶはずよ」 その夜、エミルを含む死んだラウケ信徒たちの葬式が深い森の中で行われた。 ハーフリングの葬式では風の女神シルバに捧げる祈りが終わると、森の中に死体が入っている棺をそのまま放置して帰る。 ハーフリングたちは野生動物に食われることで死者の魂が自由になると信じていた。 死んだ信徒たちの中にはハーフリングではない、他の種族もいたが、ハーフリングの葬式で行う事にした。 鳥の巣のように木の枝で組み上げた棺が森の中に置かれ、人々は綺麗にして新しい服を着せた死体を棺に入れた。 葬式のため、隣の町から来た長老がハーフリング語で祈りを捧げる。 風の女神よ ハーフリングの創造主である シルバよ ここで貴方の創造物たちが 貴方のお呼びに従い 空高く魂を捧げます 風の女神シルバに捧げる長い祈りが詠じられている時、フロイオンは神など存在しないと思っていた。 神が存在しているとしたら、自分に優しくしてくれた子供たちが死ぬはずが無かった。 彼が知っていたことが真実であれば、神は暗殺者から子供たちを助けるべきだった。 弱者を守り、悪人に罰を下すため神は存在する。 しかし、神の慈悲を求めた子供たちは自分の目の前で死んでしまった。 フロイオンはもはや神など信じまいと思った。 生き残るため神に祈ることなど、二度としないと誓った。まず自分を殺そうとした勢力について確実に把握しておく必要があった。 もう彼らから逃げず、先手を打って、彼らが自分を殺せないようにしたいと思った。 フロイオンは自分を殺そうとしたのが誰なのか調べるため、グスタフの家にいる暗殺者が意識を取り戻すまでプリアの町に留まろうと決めた。 葬式の翌日、エドウィンはタスカーやフロイオン、他のプリアの町の人たちに別れを告げた。 エドウィンは、後でタスカーに会いにハーフリングの首都ランベックを訪ねる約束して、アインホルンに向って発った。 ・次の章に進む ・前の節に戻る ・前の話に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |