第五章 レクイエム
第1話 1/2/3 青空からの暖かな日差しが大地を照らす。 穏やかな風が草原を走って波紋を描き、木の枝にとまった小鳥たちは幸せのようにさえずっている。 大きなケヤキの下で十数人のハーフエルフたちが集まり、愛で結ばれた二人の男女を祝福する。 「ベディールとリーラの結婚を祝って、乾杯!」 ジョッキを高く持ち上げたプリモの音頭に新郎と新婦を囲んでいた他のハーフエルフたちも乾杯の声を上げながら自分たちのジョッキを交わした。 あちこちでガラスがぶつかり合う音が鳴り、どんどん飲み干していく。 ベディールとリーラが幸せに満ちた顔でキスすると周りから笑い声混ざりの歓声が上がった。 もう一回ビールが回り、祝いの乾杯をすると、誰かが「ウェディングヴェールの翼をやる順番だ」と叫んだ。 ハーフエルフは神を信じないため、特に決められた結婚式の手順というのは無かった。 親しい友人や家族が集まって、結婚する二人を祝福しながらお酒と食べ物を分けて食べるのが彼らの結婚式だった。 最後に新婦が被っていたウェディングヴェールを風に飛ばし、新郎の方がそれを取ることで結婚式は終る。 これが「ウェディングヴェールの翼」である。 新婦のリーラを除いて結婚式の出席者たちは新郎のベディールと共に風が吹く方向へ離れて立った。 リーラはいい風が吹いてくる時まで待っていて、手に取っていたウェディングヴェールを離した。 まるで羽で出来ているようにウェディングヴェールはゆらゆらと風に乗って舞い飛ぶ。 ベディールはウェディングヴェールを追って、高く飛ばされる前に掴み取った。 ウェディングヴェールをベディールの手で捕まえると、人々の歓声が森に響く。 ベディールは笑顔でリーラに向けてウェディングヴェールを振った。 しかしリーラは後ろを向いたまま何の反応も見せない。 新婦からもっとも近くにいたアリエがリーラに近づいた。 アリエの手がリーラの肩に触れた瞬間、リーラの身体が後ろに倒れた。 短い静寂の後に恐怖に満ちた悲鳴がベディールの耳を襲った。 倒れた新婦の身体から流れ出た血が純白のドレスを真っ赤に染めていく。 ベディールはリーラに駆け寄った。 さっきまで愛しい瞳で自分を見つめていたリーラは、すでに帰らぬ人となっていた。 ベディールの悲痛な叫びは森に響き渡った。 ・次の節に進む ・次の話に進む ・次の章に進む ・前の章に戻る ・目次へ戻る |