第五章 レクイエム
第4話 1/2/3/4 「しかし、結局ダークエルフとジャイアントは秘密協約を結ばざるを得ないでしょうから、わざと一人を見逃せと言ったんじゃないですか? 私は未だにその理由がよく分かりませんが…」 君長が口元に微笑を浮かびながら答える。 「我らが見逃したダークエルフの使者はジャイアントたちにヒューマンに襲撃を受けたと訴えるでしょう。 外の状況がよく分からない人たちは我らの存在が分かるはずがない。 ヒューマンと同じ顔で同じ系統の言葉で話す。 当然ヒューマンだと思うでしょう。 そして使者からその話を聞いたジャイアントは、それがヒューマンからの宣戦布告のように伝わるでしょう」 一門派の継承者であり君長でもあるベイエン・アスペラの 見事な知略にセリノンは感嘆した。 「そうそう、もうすぐナヤル派の継承式があると聞きました。 必ず勝ち残って、ナヤルの名を受け継げますように」 「ありがとうございます」 セリノンは感謝の言葉を述べた後、君長の部屋を出た。 ナヤル派の本拠地へ向かいながら、これからは継承式の準備に全力を注ぐべきだと思う。 ダン族には、モネド、フマ、シマ、ナヤル、クオン、アスペラ、ドシジョという8つの門派がある。 師匠を中心に弟子たちが集まって門派を構成し、その弟子の中から一人が師匠の名字を受け継いで門派を継承するので、名字を持っているということは、その人が一門派の中心である師匠であり門派の継承者であることを示す。 君長は門派の継承者たちの中から選ばれるので、ダン族にとって継承式というのはとても重要な儀式の一つであった。 そして継承式は、門派を継承するという意味だけでなく、 その門派の師匠の葬式の意味も持つ。 一つの門派の師匠が年をとって引退する時期が近づくと、 彼は全ての門派の師匠の前で、自分の弟子に名字を譲ると宣言する。 師匠が決めた継承式の日に、その師匠と弟子が賢者の隠れ家で命を掛けて戦うのが、門派の継承式だった。 君長を含んだ他の門派の師匠たちだけが参加できる継承式で師匠と弟子は、相手を殺さなければならない。 相手に対する敬愛などは認められなかった。 自分の全ての力を発揮するのが、相手の実力を重んじることだった。 弟子がその師匠を倒すと、その翌日の夜明けに師匠の死体を燃やし、師匠の名字を受け継いでその門派の新しい師匠の座に就く。 もし、弟子が負けた場合には、師匠は自分を殺せる継承者が見つかるまで、こんな継承式を繰り返すしかない。 他の種族から見れば限りなく残酷なこの継承式はダン族の価値観がよく分かるものだと、セリノンは思った。 生き残るためには、相手を殺すしかない… ・次の節に進む ・次の話に進む ・次の章に進む ・前の節に戻る ・前の話に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |