第五章 レクイエム

第1話 1/2/3

「私も高潔なふりをしているエルフ達の仕業だと思う。
だが、証拠が無い故に一方的にシルラ・マヨルに謝れとは言えないのだ。
下手をするとエルフに言いがかりを付けている様に思われるかも知れない。
もし奴らの狙いがそれだとしたら私達は奴らの思惑通りに踊らされている馬鹿にしかなれん。
私達に比べてエルフ達はその数があまりにも多い。
しかもエルフは、いつもヒューマンと行動を共にしている。
猫かぶりが出来ないよう、全てが確実に整った上で押し付けなければならない。
それが、私達がカイノンで自由になれる唯一の道だから」

カイノンの代表らしいゾナトの落ち着いた口調にセルフは気を静めたが、まだ彼の声には不満が混じっていた。

「で、どうすると言うんだ?
奴らは魔法使いだぞ?」

「囮で罠をつくる」

「偽の結婚式を行うってことね?」

ゾナトの言葉の意味を察知したアリエが質問した。
ゾナトは頷いて説明する。

「奴らがどうやって結婚式の情報を聞き、新婦を殺すのかは分からぬが私は誰かがエルフ達に情報を流しているのではないかと思っている。
私達がそれを逆に利用しようということだ。
結婚式の噂が奴らの耳に入れば必ず新婦を殺しに来るはずだ」

「来なかったら?」

セルフが不安な目で聞く。

「来るようにする。
奴らが目を光らせるくらいの結婚式じゃないとな」

「まさか…」

ゾナト・ロータスの考えを読んだアリエは顔を横に振りながら反対した。

「私は絶対反対よ、ゾナト。
危険すぎるわ」

「こうするしかない。
これ以上犠牲者を増やすわけにはいかん」

「二人とも何の話をしているんだ?」

セルフが理解できないという顔でゾナトとアリエを見つめる。

「ゾナトは今、自分の結婚式を囮にしようとしているのよ」

「なんだって?」

セルフはようやくアリエが強く反対する理由が分かった。
ゾナト・ロータスと言えばハーフエルフを根絶しようとする敵が最も倒したい対象だった。
ゾナトがハーフエルフたちの街であるカイノンを建てた人物であり、彼らの代表であることも標的の対象となる理由ではあるが、なによりゾナトがハーフエルフたちの精神的な支えであるということが一番大きい理由だった。
ヴィア・マレアの伝統保守派から見ると、ゾナトは目の敵でしかない。

「お前、正気か?
奴らは花嫁でなくお前を殺そうとするはずだ!」

「私が犠牲になっても、被害を食い止められるのならやるしかない」

「お前が死んだらカイノンのハーフエルフはどうすればいいんだよ?!」

ゾナトはセルフの肩をたたいて、力を込めた声で話した。

「ハーフエルフは強い。
私がいなくなってもカイノンは絶対崩れない」


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