第五章 レクイエム

第3話 1/2/3

「何の話?」

「肩を撫でて下さったんじゃないか」

エドウィンはやっとジフリットの話が理解できた。
無口な父が今まで愛情表現なんかしたことは一度もなかった。
聖騎士に任命された時でさえ、父はおめでとうとの一言だけだった。

「しかし、伯爵は何で父上を訪ねたんだ?」

「国王陛下の命令でシュタウフェン伯爵の城を落としに行く際に、父上に同行してもらいたくて来たそうだ」

「シュタウフェン伯爵を?何で?」

エドウィンの質問に何の返事もせず黙っていたジフリットはエドウィンの部屋に入ってドアを閉じてからその理由を話した。

「シュタウフェン伯爵には息子が一人いるけど、何ヶ月前かその息子が狩りに出てから行方不明になったんだ。
でもそのシュタウフェン伯爵の息子が消えた後、伯爵の城近くの人々の間に夜な夜なモンスターが出現するとの噂が広まったんだよ」

「まさか…」

ジフリットは頷いて、もっと声を低くして話を続ける。

「シュタウフェン伯爵の息子は消えたのではなく、ウォーウルフになってしまったんだ。
多分狩りにでてドレクスターに噛まれたんだろう。
伯爵は息子を捕まえて城の中に閉じ込めたけど、噂が広まって結局陛下の耳にまで入ってしまったようだ。
俺も大神殿で聞いたからデル・ラゴスでその噂を聞いてない人はいないと言ってもいいだろうな」

「それで、陛下の命令でベルゼン伯爵がシュタウフェン伯爵を捕らえるために行くのか?」

「初めからシュタウフェン伯爵の領地を攻めるつもりはなかったらしい。
国王陛下は人を送らせ、シュタウフェン伯爵に息子をアインホルンに送致せよと命じられたから。
でも、伯爵は陛下の命令を聞かなかったんだ。
息子を送致したら死刑されるのが丸見えだから、送致することより
最後まで息子を守りながら共に死ぬことを選んだだろう」

エドウィンは窓の向こうに視線を投げながらジフリットに聞いた。

「父上はベルゼン伯爵の要請を受け入れられた?」

「ああ、でもベルゼン伯爵から頼まれたからではなく、陛下の命令だから共にすると決められたのだよ」

モンスターになってしまった息子と、息子を守るため世間を敵に回した父親。
誰一人易々と彼らを非難できるはずがないものの、世間は彼らから目を逸らした。
どうしてこんなことなってしまったのか、だれにその責任を問えばいいのかまったく分からない。
いや、すでに答えは知っていた。
神がこんな世界にしてしまったという答えを。
だが、エドウィンはまだその答えを否定したかっただけだった。

「俺も父上と共に行く」

エドウィンは自分の決意を兄に知らせた。
ジフリットはエドウィンが今回の出来事に巻き込まれ、心に傷つけられるのではないかと心配していたが、彼の輝く瞳で意思を見て気付いた。
弟がもはや昔のように幼い少年ではないことに。


・次の話に進む
・次の章に進む
・前の節に戻る
・前の話に戻る
・前の章に戻る
・目次へ戻る