第五章 レクイエム
第6話 1/2/3/4 `あなたは… 何も知らないからそういう風に話せるのです…` ライは口の中で呟いた。 父も無く母と二人だけで過ごしたときが貧乏ではあったものの、自分にとってはもっとも幸せな時期だった。 その後、自分を襲ったのはすべてが不幸だった。 母は魔女と言われ火刑になり、ディタの父に連れられ到着したパルタルカでは異邦人だと顔を背けられた。 そんな中でも生きていられたのは母を魔女狩りの犠牲者にしたバルタソン男爵への復讐心があってのことだった。 自分の手であの男を殺す前にはどんなに気楽な環境であれ、自分が寛げるはずが無いと思った。 「それにしても、俺としては最善を尽くしたんだが、簡単に解けられる呪いではないな。 君に掛けられている呪いを解くためにはあの方の力を借りないと。 最近はここら辺に来ているという噂も聞こえてないがね…」 `あの方?` 質問するようなライの顔をみてグスタフが補足した。 「流浪しながら病者を治してくれる方で、俺たちはあの方を`蒼いマントの医者様`と呼んでいる。 エルフで`ガラシオン`という養子を連れている方だ。 あったことがあるかね?」 ライは首を横に振った。 「とにかくその方が君に掛けられているあの恐ろしい呪いを解いてくれると思うが… この辺りに来たらと教えてくれと傭兵たちに話しておくよ。 では、君はもうしばし休んでいたまえ。 そう、腹が減ったら隣の果物でも食べておけよ。 宿のビッキーに君が食べられるものでも頼んでおかないとな」 グスタフはいくつか喉にいい食べ物を呟きながら部屋を出た。 ライはグスタフが消えた後もしばらく扉を見つめて、またベッドの上で横になった。 腹が空いたのはどうでもよかった。 これくらい、訓練場ではいつものことだった。 今自分を苦しめているのは、今後のことだった。 フロイオン・アルコンの暗殺は結局失敗してしまった。 グスタフの言うとおり、自分が十日も意識を無くしていたらセリノンとクニスはパルタルカに戻ったはずだ。 ライが師匠の推薦でシャドーウォーカーに入団した時から二人はライが異邦人だと言いながら、彼女を無視した。 ライが最後のチャンスを握るため去った後、戻ってこなかったから心配ところか死んだと決め付けて戻ったはずだ。 今さらフロイオン・アルコンを暗殺してパルタルカに戻ったとしても誰も受け入れてくれないはずだった。 ダンはそういう種族だから… `それにそのダークエルフを見つけるすべも無いね… すでにイグニスに戻ったはずだし` 「やっと目覚めたか」 ・次の節に進む ・次の話に進む ・次の章に進む ・前の節に戻る ・前の話に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |