第五章 レクイエム

第4話 1/2/3/4

「ライは死にました」

セリノンの答えを聞いたジン・ドシジョは目を閉じて呻いた。
そんな彼を見てセリノンは理解できないという口調で問う。

「どうしてライの死をそんなに悼まれますか?
その子は最初から我らとは違いました。
むしろディタの死を悲しまれるべきではありませんか?
彼の父親もあなたの弟子でしたから」

「もちろんディタの死も悼んでいます。
だが、彼の寿命がそこまでだったし、私は心の準備をしていました」

「では、ライの寿命はディタとは違ったと仰るのですか?」

「ライは、死ぬ運命ではありません。
彼はデル・ラゴスで生まれましたが、運命はパルタルカに向いていましたから」

セリノンは呆れたように顔を横に振った。
ジン・ドシジョは8人の門派の師匠の中で、最も変人だと呼ばれた人物だった。
彼はパルタルカ内でもよく知られた変わり者だったので、
彼の弟子になろうとした者は数少なかった。
ディタとライが死んだので、彼にはカイを含めんでも、
もう10人の弟子も残っていないとセリノンは思った。

「とにかく、ありがとうございました」

ジン・ドシジョがまた目を開けてセリノンに告ぐ。

「ライが死んだとは信じにくいですが、シャドーウォーカーのリーダーが嘘をつくはずないでしょう。
では、ごきげんよう…
後ほど継承式に伺います」

セリノンもジン・ドシジョに挨拶を述べ帰った。
セリノンが見えなくなった後、カイを呼んだジン・ドシジョは今日はこれで休みたいから明日の朝まで誰も通すなと命じ、自分の書斎へ向かう。
ドアを閉じて彼は自分の足元にある箱から黒いガラスで作られた丸い皿をゆっくり取り出して机の上に置いた。

皿の中には水のように透明な液体が注がれていた。
ジン・ドシジョは懐から短刀を取り出し、自分の左手の平を斬る。
真っ赤な血が流れ、皿の中に落ちる。
ジン・ドシジョの血が液体の水面に触れた瞬間、青い光が水面に現れ、文字を作り出した。
その文字をじっと見つめていたジン・ドシジョの口元に
微笑が広まる。


・次の話に進む
・次の章に進む
・前の節に戻る
・前の話に戻る
・前の章に戻る
・目次へ戻る