第六章 嵐の前夜

第11話 1/2/3/4/5/6

灰になった戦場に足を踏み出した瞬間、キッシュは奇妙な寒さを感じた。

「霊魂でも彷徨っているようだ」

目に移る光景は燃え切って灰になった木々の痕跡だけだ。黒くなった木はそっと触るだけで、灰になり壊れてしまいそうだ。見上げた空は今にも落ちてきそうな濃い灰色の雲で埋めつくされていた。聴こえてくるのは岩の隙間を通り抜ける風の音だけ。

キッシュはゆっくり歩きながら休める場所を探してみたが、いくら歩いても灰だらけの死んだ風景ばかりが続いた。ようやく岩の間で小さい泉を見つけ、荷物を降ろした。

監督官がキッシュとドビアンに所持することを許可したものは、試験の規則について説明しながら渡した大きな袋一つと、つけていた腕輪だけだった。監督官は袋の中には試験に必要な物は全部入っている為、他は何も所持することが出来ないと強調した。キッシュは泉から水を手ですくって飲んでみた。

「まずい…変な味だ」

キッシュは手の甲で口元を拭いながらつぶやいた。
苦い味がするが、飲めないわけではないと自分に言いながら石に腰をかけ、持ってきた袋を開いてみた。中には小さな短剣とフード付きマント、小さなパンがひとつだけあった。パンは一食で終わりそうな小さいものだった。

今一番必要なものは水と食糧だ。いつまで泊まるか分からないので、まだ余裕がある今のうち水と食糧を確保しなければならない。キッシュは短剣をベルトにつけ、立ち上がった。生き物が何一つ見当たらないここで狩りができるか自信はないが、そのまま待っても何も変わらない。

周りを見回ったキッシュはマントをかけ、持ってきた袋を短剣で切り始めた。できる限り細長く切った布をまとめてベルトに巻きつけた。

最後の一枚は今いる場所にある木の枝に締めつけた。しばらく歩いて、先ほど締めつけた布が見えないくらいのところまでくると、腰に巻いておいた布をほどき、近くの枝に締めつけた。内心、どこで迷っても同じではないかと思ったが、枝に布で目印を付けるのをやめなかった。

5番目の布を締めつけるまで生き物は見当たらなかった。予想より厳しい環境だとわかった。


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