第六章 嵐の前夜
第2話 1/2/3/4/5/6 国立王室図書館はほのかで穏やかな紙の香りに満ちている。 綺麗に並んでいた本たちは取り出すたびに、あくびをしながら伸びをして、ステンドグラスの窓から入った日差しが白い紙に花を咲かす。 エドウィンは厚い皮の本の表紙をゆっくりとめくりながら、久々にアインホルン大神殿にて受けた聖騎士になる為の授業のことを思い出した。 聖騎士は騎士でありながら、同時に聖職者でもある。 一般の騎士のように剣術の腕だけでは聖騎士として認めてもらえなかった。 主神オンとエドネ、そしてヒューマンの創造神である光の神ロハ以外に他の下位神のマレアやシルバ、ゲイル、フロックスに関しても誰よりも熟知している必要があり、それより重要だったのは、神に対しての絶対的な信仰であった。 それで一日三時間、トリキア神学校の教授たちから神学の授業を受け、週明けにはアインホルン大神殿で大司祭が執行する祈祷会に参加しなければならない。 一日五回神に祈りを捧げるのはもっとも基本的な規則だった。 朝起きてからは主神オンに、食前には光の神ロハに、夜眠る前にはまた主神エドネに祈りを捧げる。 始めは監獄のようだったそれらの規則も、3年も経つと慣れてしまったが、正式の聖騎士として任命されたその日までなれなかったのは、デル・ラゴスの最高司祭であった、大司祭ホライセンの鈍い言いぐさと静かな声だった。 彼の鈍い言葉と口のなかでぶつぶつ言うような小さな声を聞くと退屈でどうしようもなかった。 それで大司祭が一年に一度執行する特別講義や毎週の祈祷会の時にはハウトとルムスについて話した。 ルムスはデル・ラゴスでもっとも知られたゲームである。 デル・ラゴスの兵士たちが、エルフと共にヴィア・マレアの首都だったレゲンを奪還するためモンスターたちと戦ったことから作られたというルムスは、誰でも簡単に遊べられるゲームだった。 必要だったのは縦横8間の紙と36個の石ころだけだった。 一人18個の石ころを持って遊ぶルムスは、相手のキングを取れば勝つ、ごく簡単なルールのゲームである。 キング以外の、司祭、近衛兵、聖騎士、魔法師、弓手や警備兵の役割が決められている石ころをもって、相手の陣を崩させて王を倒すゲームだった。 聖騎士団に入団する前までエドウィンは時々兄と父のルムスゲームを観戦したが、兄が司祭になり、出家した後はルムスに関してはすっかり忘れていた。 偶然神学授業の時に隣に座っていたハウトがエドウィンにルムスゲームをプレイできるかと聞かれたことがきっかけとなり、二人は親しくなった。 ・次の節に進む ・次の話に進む ・次の章に進む ・前の話に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |