第六章 嵐の前夜

第9話 1/2/3/4/5/6

「呪いですか?」

ロレンゾの顔色が変わった。

「呪いをかけられた患者がいるって事ですか?まさか、進行中のものではないですよね」

グスタフは首を横に振りながらロレンゾの肩を軽く叩いた。

「案ずるな。俺は呪いを解く事は出来ないが、呪いに関しては詳しいんだ。進行中の呪いではなかった。魔法がかけられていたらしいが、それが解けた瞬間、呪いが痕跡として残ったらしい。詳しい事情は後で説明してあげるから、今日はもう休んだほうがいい」

「はい… それでは明日の朝にお伺いします。おやすみなさい」

眉毛のように細くなった月はもう夜空の真ん中にとまって、地上の万物を照らしていた。エドネの目とも呼ばれている月は、なんだか微笑んでいるわけではなく、目を閉じて世の中から顔を背けているかのように見えた。グスタフは少し三日月を見つめてから下のリビングの火を全て消して、蝋燭1本だけを手にして自分の寝室に戻った。

大きい袋のような寝巻きに着替えて横になりながら、ベッドの横の小さいテーブルの上の絵に目をとめた。絵の中には自分と一緒に肩組みをして大きく笑っているベロベロがいた。半年前、ベロベロはイグニスを訪問するため、旅立った。

グスタフは枕に頭を埋めて、額縁の中の絵を撫でた。古き友人であるベロベロが最後の注文を仕上げるためにイグニスへ行くと言った時、グスタフは反対した。眉毛ミミズク長老にあたる人が、ハーフリングの町を簡単に離れてはいけない、と彼を説得したが、本当のところは彼の旅路になんとなく不安を感じていたからだった。しかし、ベロベロは独特の大きな笑顔を浮かべながら言った。


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