第六章 嵐の前夜

第14話 1/2/3

「じゃあ最近入ってきたハーフエルフ達を詳しく調べれば殺人犯が見つかるというのか?」

セルフの質問にカエールは首を横に振った。

「いや、そうしてしまうと俺達はお互いのことを疑い始めるようになる」

「ハーフエルフたちが生き残るためには団結しなければならないのに、お互いを疑い始めては団結をすることは難しくなる。新しく入ってきたハーフエルフたちを追及するのは、殺人犯を喜ばせる結果にしかならない。しかも最近入ってきたハーフエルフではなく、以前から入り込んで機会を狙っていたかもしれない」

「じゃあ、どうしろと言うんだ。ゾナトの言うとおりに偽の結婚式でもあげると言うのか?」

「そうだ。そうするしかない。餌を蒔いて殺人犯が釣られてそれに飛びつくようにね」

「カエール、今ゾナトは自分が囮になると言っているのよ」

アリエの言葉に驚いたカエールがゾナトを見つめた。

「自分で囮になるって、どういうつもりですか?」

「我々の予想通りにエルフがこの事件の犯人であれば、彼らが狙う最終的な目標はこの私であるはず。私が結婚式をやるとしたら犯人は新婦ではない私を狙うに違いない。自分に絶好の機会が訪れたと思うだろう」

「しかし、他の人の結婚式をおとりにしてもいいのに…なぜ…?」

「もうハーフエルフたちの間で犯人を捜している状況だから、他の結婚式などには現れない可能性が高い。犯人は基本に忠実ながら慎重かつ丁寧な性格らしい。しかし、私が結婚式に出るとなるとしたら、その機会を逃したくはないだろう」

ゾナトは一回言葉を止めて、アリエとカエール、そしてセルフを一度ずつ見つめて普段より優しい口調で言った。

「私はこれ以上ハーフエルフ達が犠牲になるのにはもう耐えられない…。私が命を落とすとしても殺人犯を捕えることができれば、私は本望だ。そして、私がいなくてもハーフエルフたちはこのカイノンを守りきることができるはずだ」


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