第六章 嵐の前夜
第6話 1/2/3/4 「それは上の方たちが決める事だ。俺たちは言うとおりにやればいいんだよ。しかし、俺にはあのジャイアントがモンスターに簡単にやられるとは思えない。だから血まみれの服とかを見せたって、向こうも信じっこないんじゃないか? ハーフリングの爺はモンスターに食われてもおかしくなかったから、ハーフリングたちも騙されてくれたんだよ。しかし、あの者の体を見ろ。モンスターが群れで襲っても一気に片付けてしまいそうだろう?」 警備兵たちはナトゥーが聞いていることなんかお構いなしにしゃべり続けた。ナトゥーはやっとダークエルフがどれほど狡猾にベロベロの生存をハーフリングたちから隠してきたかが分かるようになった。彼らはベロベロの衣服を脱がし、動物の血を塗った。 そして、それをハーフリングたちに見せて、死んでいたベロベロを発見したかのように言ったのに間違いなかった。ナトゥーは自分が思ったより、狡猾で悪辣なダークエルフの姿に驚いた。普段、ハーフリングたちと仲が良かったわけではないが、ダークエルフがやっている事は種族間の対立を超え、邪悪、その物だった。 辺境で、モンスターたちとの戦いで死んでいった戦士達の死を家族に知らせる事を数え切れなく経験したナトゥーとしては、生きている人を監禁し、偽りの遺品を作って家族に渡すというのはとても許せない行為だった。 もし、ダークエルフが自分の服で偽遺品を作り渡したりでもしたら、母と姉は衝撃に耐え切れないだろう。弟・ラークに死なれて未だに立ち直ってない母は、自分の偽遺品なんかを渡されると、その場で気を失ってしまうかもしれない事だった。 ‘そして、クレム…あいつも俺が死んだと言われたら悲しむだろう… 泣いてくれるのか。 いや、あいつなら人の前で決して涙を見せない。 むしろ、俺が死んだわけがないと俺の死体を捜し回るかもしれない’ 今更クレムとの思い出が頭の中に走馬灯のように現れた。 幼い頃、雪の降る浜辺で雪合戦をした事、戦士になりたいと一緒に戦士訓練所に入った事、訓練所で一晩中、剣を競ったが、夜明けになってやっとクレムに勝てた事、戦士会の兵営で一緒に戦士に任命された事、辺境でモンスターが攻め寄せてきた時、力を合わせ一緒にやっつけた事。 ・次の節に進む ・次の話に進む ・次の章に進む ・前の節に戻る ・前の話に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |