第六章 嵐の前夜

第5話 1/2/3

「みんな気を付けろ。もし投げる前に落としたら、煙が広がる前に海の中に投げるのだ」

バハドゥルの説明に警備兵たちの動きはより一層慎重になった。袋の中に入れておいたものをすべて島の方に投げ、そして最後の1つが残った。

最後の1つになり緊張の糸が切れたせいか、一人の警備兵が手に持っていたつぼみを地面に落とした。その警備兵が落としたことに気づいたときには既につぼみが開いており、赤い煙を吹き出し始めた。

「逃げろ!!」

バハドゥルの叫びに警備兵たちはすぐさま煙の届かない場所に逃げ出した。バハドゥルと警備兵たちはつぼみから赤い煙が吹き出るのを呆然と見ながら煙が治まるのを待った。突如として、先程つぼみを落とした警備兵が悲鳴を上げ始めた。

「ギャー!悪魔だ!助けてくれ!!」

バハドゥルは狂ったように悲鳴を上げる警備兵の腹をこぶしで思いっきり殴った。バハドゥルに殴られた警備兵は気絶し、悲鳴は収まった。恐怖に怯えている警備兵たちの顔を見ながらバハドゥルが言った。

「起きた頃には彼も正常に戻っているだろう。先程諸君らに投げてもらったのは幻覚をみせる‘クメラ’という花だ。普段はつぼみの状態だが、軽い衝撃を与えただけで花が咲きながら煙を吹き出す。

煙には死に至る毒性はないが、少しでも吸うと一日中幻覚を見る大変危険な花だ。特に、赤い煙を吹き出すあの赤いクメラは無意識の中にある恐怖を幻覚に見せるため‘地獄の花’と言うあだ名も付いている」

「…も、もし煙を吸ってしまったら、幻覚から抜け出す方法はないのですか?」

顔色が青白い警備兵が聞いた。

「幻覚から逃れる方法は二つだけある。今の兵士のように他人に気絶させられた後起きるのが1つ。もう1つは、強靭な精神力で幻覚に立ち向かい、打ち勝つ事だ。

とはいえ、並の精神力ではクメラの幻覚に打ち勝つことは不可能だ。」

バハドゥルは灰の戦場を見つめながら独り言をつぶやいた。

「さて… 二人とも生き残れるかな。」


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