第六章 嵐の前夜

第11話 1/2/3/4/5/6

キッシュは揺らいでいた心を引き寄せながら目を開いた。彼女は目の前に立ち、彼を見つめていた。彼女の顔を見た途端、また心臓がちぎれるような痛みを感じたが、両手をぎゅっと握り崩れそうな足に力を入れた。

「お前はナルシじゃない」

キッシュはしっかりと彼女の目に視線を合わせながら、はっきりとしゃべった。

「ナルシは…彼女は自分より俺の事を考えてくれた。少しでも俺がつらそうと思ったら自分のことのように泣いてくれた…だからお前はナルシじゃない。俺を痛ませるはずがない。お前はナルシじゃない!ナルシは死んだ!俺が…」

一瞬息が止まるような痛みで言葉が出なかったが、深く息を吸ってから、より力を入れて叫ぶように話した。

「お…俺が、俺がナルシを殺した!彼女の胸を突き破って殺した!俺が、俺が彼女を殺して海に沈めてやった!だからお前はナルシじゃない!」

彼女はむせび泣いているのか、あざ笑っているのか分からないおかしい声をだし、いきなり空中に浮かび上がり、悲鳴をあげながらモンスターに化け始めた。

「キッシュ!私を殺した上に今は拒否するつもり!地獄から帰ってきたのに!」

いつの間にか空は暗くなり、稲妻が落ちていた。周りの木々は炎に囲まれ激しく燃え上がっていた。熱気がキッシュの体を包み、マントに火がついた。キッシュは急いでマントを脱ぎ、投げ飛ばした。

空中で化けている彼女の姿に恐怖を覚えた。腐った肌、鉤爪のように大きくなった爪、狂気で光る瞳、そして絶えず血が流れてくる胸の穴。モンスターのように化けた彼女は身もだえしながら悲鳴をあげた後、キッシュに攻撃してきた。獲物を狙う鷹のように恐ろしい勢いで降りてきた。

キッシュは体をねじり攻撃を避け、短剣を握った。彼の代わりに攻撃を受けた木は粉々になった。彼女はまた空へ飛び上がり、金切り声で叫んだ。

「許せない!」


・次の節に進む
・次の話に進む
・次の章に進む
・前の節に戻る
・前の話に戻る
・前の章に戻る
・目次へ戻る