第六章 嵐の前夜

第6話 1/2/3/4

ナトゥーは巻物を巻き戻して、紐で結んだ後、肩の防具の隙間に隠しておいた。その時、警備兵たちのうめき声が聞こえた。振り向いて外を見ると、つい先程までお酒を呑みながら騒いでいた警備兵2人が地面に倒れていた。

その後ろに、黒い仮面を被った人影が目に入った。彼は倒れた警備兵に近づいて腰から鍵を奪い、ナトゥーが閉じこめられている監獄に近づいて来た。ナトゥーは腰に帯びている剣の柄を握り締めた。

黒い仮面の人はそれを見られなかったのか、見て見ないふりをしたのか、ナトゥーの監獄の扉を開けてくれた。
警戒しているナトゥーに彼は手招きをして、外へ呼び出した。ナトゥーはまだ片手で剣の柄を握ったまま監獄の外に出た。黒い仮面を被った人はナトゥーが剣を握っているのを見たが、何も言わずに出口へと歩き出した。

ナトゥーも彼の後を追って出口に向かった。長くて暗い螺旋階段を上がると、狭くて向こうが見えない廊下が目の前に現れた。壁にかけられたたいまつが闇を照らし、その下に倒れているダークエルフの警備兵たちがところどころに見えた。

「貴方は誰だ。俺をどこに連れていくつもりか。」

ナトゥーの質問に何も答えることなく、黒い仮面を被った人は前へ進んで行くだけだった。先の見えない廊下がどこへ向かっているかは分からなかったが、監獄に閉じ込められているよりは得体の知らない人にでも付いて行ったほうがまだましだとナトゥーは考えた。

しばらく無口で歩いていた仮面の人はあるたいまつの下に止まり、スタッフを使ってたいまつを触った。すると冷たい石だった壁が溶け落ちるようになって、すぐ大きな穴となった。黒い仮面の人は穴の中に入って姿を消した。

魔法と言うもの自体に拒絶感を抱いていたナトゥーは魔法で作られた穴を見て、少し戸惑いはしたものの、深呼吸をして穴の中へ足を踏み出した。穴を通過したのは一瞬だった。いつの間にか月の光に染まって仄かに光る白い樹木が周りを囲んでいた。

‘外に出たのか?’

周囲を見回すナトゥーの後から黒い仮面の人の冷たい声が聞こえた。

「去れ、ジャイアント。聖なる火の地はお前を歓迎しない」


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