第六章 嵐の前夜

第11話 1/2/3/4/5/6

モンスターは倒れたキッシュの体の上に座りこみ、手で首を絞めながら枯れた声で話した。

「あなたの順番だよ、キッシュ」

キッシュは力を出してモンスターを振り払おうとしたが、モンスターはびくともしない。息がどんどん苦しくなり、周りの炎は猛烈な熱さで迫ってくる。

なんとか抜けだそうとするキッシュの視界に、先ほど火がついて投げ出したマントが入ってきた。もう焼け焦げて灰になっているはずのマントには、焼けた痕跡がまったくなく元の状態のままだった。周りを見回したが木々もさっきと同じだった。見上げた空にある黒い雲も先ほどから動いてはいない。

「そうか…これは幻だ…」

キッシュは眼を閉じ、今までの全部が幻覚だと自分自身に言い聞かせた。心が鎮まりで幻覚だと十分に確信ができてから閉じた目を開けた。

全てが消えていた。恐ろしい勢いで木々を燃やしつくしていた炎も、背中から地面まで流れ続けていた血も、息苦しいほど首を絞めていたモンスターも…

いつの間にか日が沈み空は黒くなっていた。

「ナルシじゃなくて…よかった…」

キッシュはつぶやきながら目を閉じ、眠りに落ちた。閉じた目元から小さな露が一滴落ちてきた。


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