第六章 嵐の前夜
第10話 1/2/3/4/5/6/7/8 「そう…ずっと前に行くべきだった…私はもう妻を殺した罪人だ。娘まで自分の手で殺すわけには行かない。これ以上、罪を重くする事は出来ないんだ。…罪を償わなければならない。すまない、オルネラ…」 男は折れたワンドを短剣のように両手で握って、自分の首を思いっきり刺した。噴水のように血を噴きながら男は妻のそばに倒れた。そして、石像のように固まって座っている娘を見て、涙を流しながら目を閉じた。 トリアンは涙を流した。自分が覗いた幼い娘の無意識の世界はあまりにも残酷だった。トリアンはオルネラを見ながら、最善を尽くしてこの子の傷を癒すと決心した。オルネラの無意識の世界から抜け出そうと呪文を唱えていたら、いきなり目の前に火柱が噴き上がった。 トリアンは驚いて後ずさりをした。先ほどまで目の前にいた夫婦の遺体やオルネラはいなくなり、トリアンはいつの間にか燃えている小さな村に立っていた。 ‘これもオルネラの無意識の世界?’ トリアンは周りを見回した。所々で人々の悲鳴が上がっていて、燃えている家から飛び出ている人の姿が見えた。その人は火の手から逃げようとしていた。しかし、大きな刃が飛んできて、彼の背中に刺され、そのまま倒れてしまった。彼の背中に刺さった刃は見た事のない武器だった。 持ち手の両側に大きな刃が付いている武器は、もう幾つかの命を奪ったようで血まみれになっていた。近づいてよく見ようとしたら刃が飛んできた所から誰か馬に乗って走ってきた。海賊か山賊であろうと思ったトリアンの予想とは外れ、馬に乗っていたのは鏡で作られた仮面を被っている女性のエルフだった。 長くて黒い髪を一つに結んだ彼女は死体に刺されている剣を取り出した。初めて会った人だったが、トリアンはなぜか懐かしい感じがした。彼女に近づこうとした瞬間、誰かがトリアンの後ろから恐怖に怯えた声で叫んだ。 「シーエフだ!シーエフが現れた!!」 その声を聞いた侵略者は何も言わずに巨大な刃を高く上げ、声が出た所に向かって投げた。その瞬間、トリアンは鏡の仮面の下からエルフの顔が見る事ができた。仮面の下にはオルネラに似ている女が冷たい笑顔を浮かべていた。 ・次の話に進む ・次の章に進む ・前の節に戻る ・前の話に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |