第七章 破られた時間

第13話 1/2/3

ライは予想しなかったガルラシオンの言葉にしばらく驚いたが、何も言わずにガルラシオンの声に耳を傾けた。

「私、ロレンゾ・ファベル様の実の息子ではありません。元々、エルス港の東側にある小さな海辺の村でお父さんとお母さん、そしてお兄さんと一緒に住んでいました。しかし私が7歳の時、村に伝染病が流行って、みんな死んでいきました。

誰かがエルス港やヴェーナに助けを求めに行く暇もなく、みんな伝染病にかかって倒れていたのです。その時、ロレンゾ・ファベル様が村を通りかかられて、熱心に村人を治療しました。

しかし、ほとんどの村人が死にました。生き残った人々は指折りで数えられるぐらいでした。お母さんやお父さん、お兄さんも結局生き残れませんでした。」

ガルラシオンは首を上げてライを見つめながら言った。

「お母さんは毎朝、香ばしい匂いがするパンを焼いてくれました。パンの匂いをかぎながら気持ちよく眠りから覚めると、お母さんはいつも私の額に軽く口付けして、女神マレアの祝福が満ちている一日になるように、と言ってくれました。

お兄さんがお父さんと一緒に釣りをしに行くと、私はお母さんの後ろで歌を歌いました。たまにお母さんが新しい歌を教えてくれたりもしました」

ライはガルラシオンの話を聞きながら子供の頃、いつも自分をかばってくれたお母さんのことを思い出した。子供の頃、自分の思い出の中でお母さんはいつもそばにいた。お母さんがいない日々は想像したこともなかったが、いきなり運命は自分の中でお母さんを消してしまった。

魔女の娘という理由でいつも人々から離れ森の中に隠れていたため、お母さんの最後も見届けることができなかった。お母さんに最後の挨拶が出来なかったことが、ライにとっては一番大きな悲しみだったので、さらにバルタソン男爵を許せなかった。

「私は家族と友達が伝染病で死んでいくのを見ながら、傷ついた者を治癒する白魔法師になると決心しました。それで、ロレンゾ様に学生にしてもらってほしいと頼んだら、ロレンゾ様は学生よりは息子の方がいいと自分を養子に迎え入れてくださいました。

実の息子のように私の面倒を見て、可愛がってくださったおかげで死んだ家族を忘れて過ごすことが出来たのに、あなたがゆっくりと目を瞑っている姿を見るとお母さんを思い出すのです」


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