第七章 破られた時間

第15話 1/2/3

そよ風がやさしく3人の顔に吹いてきた。木の上に止まっている鳥はそれぞれの歌を歌っている。葉っぱの間から差し込んでくる日差しに葉っぱや花びらに朝方溜まった露が光っている。

「もうすぐだな。ここからは僕一人で歩いていくから、お前たちは決めた場所で待機してくれ」

アリエとセルフは頷いて右と左へ走っていった。ゾナトは2人の姿が消えるのを確認して、音楽が聞こえる方向へゆっくり歩き出した。

巨大な木が見え始め、木の周りに集まっている人々が目に入った。ほとんどのハーフエルフたちがリマ地域で傭兵として活動しているのにもかかわらず、軍長の結婚をお祝いする為に集まったハーフエルフは多かった。

最初のハーフエルフであるレッチェル・カルテンと一緒に
ハーフエルフの街を作る計画を立てた時は、たった30名に過ぎなかった。アインホルンから離れて今のカイノンに定着するまで10年が必要だった。

レッチェル・カルテンも計画の途中でモンスターの攻撃により亡くなってしまった。当時を振り返ってみれば、今こんなに大勢のハーフエルフが集まっているのが夢のようだ。

‘レッチェル、見ていますか?こんなに大勢のハーフエルフが集まっています。僕たちが夢で描いていたハーフエルフの街、カイノンがもうアインホルンやヴェーナと比べても負けない大きな都市まで成長しました。

毎日のように大陸のあちらこちらからハーフエルフがカイノンに来ています。生まれた2代目のハーフエルフがいつの間にか成人式を迎えています。

この光景を一緒に見ることができたらよかったのに…’

ゾナトは目頭が熱くなるのを感じたが、木の上に身を隠しているカエールが目に入って、やっと感情を抑えることができた。今は罪のないハーフエルフの命を奪い続けている悪質な犯人を捕まえることが最優先だ。

木の下には結婚式の為の小さい舞台が設けてあって、台の上には綺麗に着飾ったバナビーが待っていた。バナビーは微笑んでいたが、ゾナトには彼女が笑顔の下に隠している不安が伝わってきた。

「どうか予想通り、新婦じゃなくて僕を狙うように…」



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