第七章 破られた時間
第4話 1/2/3/4/5 『ある程度満足した頃には夕焼けが空を染めていたわ。その時初めて私は靴を履いていた足が豆だらけになった事に気付いたの。歩けないほど辛くて馬車に乗って帰ろうと思ったら、辺りを行き交う馬車が見当たらなくてね。 結局、私はどこかに座って休みながら馬車を捜そうと思って近くに見える噴水台に行ったの。冷たい水が湧いてくるのを見つめながら椅子に座って休んでいたら、背中からしくしくと泣き声が聞こえてね。 びっくりしてそっと振り向いてみたら、一人の男性が私の後ろにある椅子に座って泣いていたのよ。知らない男に先に声をかけるのは女としてはありえない事だったから、私は前を見て座りなおしたのよ。しかし男はずっと泣き続けていたわ。 今までに聞いた事のない、悲しい泣き声…。悩んだ私は持っていたハンカチをそっと彼に渡してあげたの。びっくりしたみたいだったけれど、小さな声で私にありがとうと言ってくれたわ』 田舎貴族の娘であったアンジェリーナ・アルコンと先王ロシュ・リオナンの出会いはそのような形だった。当時、コンテブロー家の娘であるシャロット・コンテブローとの政略結婚で混乱していた先王は、自分の事を暖かく慰めてくれるアンジェリーナに心を奪われた。 その後、先王はアンジェリーナ・アルコンに会うためにアルコン家がある田舎によく狩りを出て、二人の愛を育てていった。しばらく経ってから、シャロット・コンテブローとロシュ・リオナンの間で現イグニス国王であるカノス・リオナンが生まれた。 アンジェリーナのお父さんは国王に子供ができた以上、アンジェリーナは捨てられたのに等しいと嘆きながら、アンジェリーナを他の家と男と結婚をさせようとした。 しかし、息子が生まれてからもアンジェリーナに対するロシュ・リオナンの気持ちは変わりがなかった。むしろ先王は自分の後継者が生まれて王妃としてのシャロット・コンテブローの立場は固まったから、王妃に対する自分の義務は終わったと、アンジェリーナを王城に連れて行った。そして1年後、アンジェリーナは息子を産んだ。 しかし、あくまでもアンジェリーナは先王の情婦であったため、アンジェリーナが生んだ息子はリオナンという苗字をもらう事はできなかった。それでフロイオンは母親の苗字をとって、フロイオン・アルコンという名前をもらった。 このときからシャロット・コンテブローはアンジェリーナに嫌がらせを始めた。イグニスの中で最も大きい権力を持った家であるコンテブロー家門のシャロットは、夫である国王の前でも露骨にアンジェリーナをいじめた。 ・次の節に進む ・次の話に進む ・次の章に進む ・前の節に戻る ・前の話に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |